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2024年8月17日土曜日

剱岳 チンネ左稜線

剱岳 山頂より

期日 2024/8/10~8/12
山域 北アルプス 剱岳 チンネ左稜線 (早月尾根~)
メンバー かず・たか・まぢこ

チンネに行きたい。今年こそは!

私にとって憧れの場所の一つである剱岳チンネ。
何年も前から計画する度に、台風の襲撃や大雨などで何度も計画倒れになってきた私にとって相性の悪い場所の一つだ。

そんなチンネだが今回やっと行くことができた。
予報では、アタック日の午後からの天候に少し不安はあったが実際に行ってみれば午後から多少ガスにまかれた程度で素晴らしい天候とロケーションの中まさにThe・Alpineを感じることのできる素晴らしい山行になった。

8/10 AM 3:00 名古屋発  AM7:00 馬場島着

上の駐車場はすでにいっぱいなのであきらめて一番下の駐車場に駐車。
大量のアブと闘いながら準備を済ませて7:40出発。

早月小屋には水場がないため各自余分に2㍑ずつ持つことにした。
この時点で私の荷物は、なぜか27㌔
ちなみにだが、まぢこ17㌔ たか25㌔

お約束の写真(まだ元気w)

本日は早月小屋まで。時間的には余裕があるのでのんびりスタートした。

歩き始めていきなりの急登。息が切れ、汗が吹き出さす。
流石は北アルプス3大急登だw。その後はしばらく傾斜が緩くなり、ちょうど良いタイミングで1ピッチ目が終わる。(ピッチ表記は山と高原地図のCTのポイント位置によるもの)
馬場島から早月小屋までは4ピッチだ。

写真中央のコルが三の窓

休憩しながら見える三の窓の遠さを改めて実感しながら先に進んだ。

暑い暑いと言いながら歩いているうちに2ピッチ目も終わる。

1600mm 地点にて

 この辺りを過ぎたころからタカの足がツリ始める。(もうすっかりお約束だなw)
今回は見ていて流石に可哀そうだったので荷物を少し持ってあげることにした。
私はロープを。まぢこは食材を。
この時点から私の荷物は30㌔弱、まぢこも20㌔ほどになった。
では、タカの荷物は?計算が得意な方ばかりではないかもしれないので一応正解を書いておこう。20㌔だ。

そして、この辺りから斜度が上がってくる。
タカと携帯電話がつながることを確認し私とまぢこは先に進むのでゆっくり上がってくるようにと言い残し先に進んだ。

じじいな私は当然だがまぢこもきつそうだ。それでも小屋まではあと半分と思い足を進める。

暑さと、重荷に息を切らせ苦痛に耐える。なんなら少し笑えてきた。

試練と苦痛 憧れは無しで

なんとか3ピッチ目も終わりに近づき小屋まで残すところ標高差で300mほどの辺りでタカが追い付いてきた。ずいぶん調子が良くなったようで私は嫌味も含めて「早いね」っと声をかけると嬉しそうな顔で「荷物軽いっす!」元気いっぱいに答えてきた。やはりポンコツ of  the ポンコツだ。

さっきもらった荷物を返してやろうかとも思ったのだが、また持たせて足がつられると鬱陶しいのでとりあえずそのまま先に進むことにしたが、私の事は良いとしても、まぢこに渡した分でさえもスルーしたタカには男として先輩としてのプライドはどうなっているのか今度会ったときにでも聞いてみようと思う。

そんなこんなで14:40 早月小屋到着。この暑さと荷物でこの時間ならまぁ良しとしておこうw

受付を済ませ幕営してビールを飲む。これだけ汗をかいた後なのでいつも美味いがいつも以上に美味く感じる。

少しだらだらした後、少々早めではあるが明日の出発時間が早いので夕食の準備をしてもらう。


本日の夕食はビーフシチューハンバーグご飯だった。

おいしかったです。

この日は流石に宴会はせずに19時前には就寝した。

8/11 0:00 起床

 先日の夕方から降っていた雨はやみ空には満点の星空が広がっていた。

朝食は食べる気がしないのでコーヒーだけ煎れて飲んだ。

なので朝食は各自のタイミングで行動食を取ることにした。

準備を済ませ予定通り1:00に早月小屋を出発した。

ひんやりとした空気と夜露で湿った緑の匂いが心地よく、月明りは無いが満点の星空に抱かれながら剱岳山頂を目指した。


山頂手前

4:15 剱岳山頂

まぢこ 剱岳初登頂

 チンネには室堂から入山し剱沢~長次郎谷~三の窓で行きたかったのだが、雪渓の具合がよく分からない(昨年の雪の少なさとこの暑さを考えれば良いわけがない)ので下手にそこでリスクと時間をかけるより、時間の読める早月からの方が良いのでは?っと今回早月から計画したのだが、まぢこ的には一番初めに剱岳の山頂を踏めたので良かったと思う。

北方稜線に入るには少し暗いため山頂でご来光を待ってから先に進むことにした。


『 夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ 』

 岩に腰かけて暁色を帯び始めた東の空を見つめながら、たまたまちょっと知ってる百人一首をの一句を思い出したりして、「俺もなかなかに風流だな」などと自分に酔っていると山頂はすごい人になっていた。


剱岳山頂 出発前

 沢山の人を背に剱岳山頂を後にする。


北方稜線に入るとさっきまでの雑踏が嘘のように静かになる。
朝日に照らされた暁色の岩肌と谷から吹き上げる冷たい風が心地よい緊張感を誘う。


順調に歩を進め池の谷ガリーに入る。


ガリーを下れば三の窓、そこからチンネ左稜線取り付きはもう目と鼻の先だ。

、、、、、。

の、はずだったが流石はポンコツ!ここでやらかす。

なぜか勝手に三の窓手前で右側に見える踏み後に引っ張られルートを外れる。
終了点を見つけ嬉しくなりそれに引っ張られガレを登る。

そして我に返る。

ん?ちょっとまて。これってチンネ終了後の懸垂ルートじゃねぇ??

なぜこんなことになったのかは未だにわからないw

気を取り直し引き返しガリーに戻る。
今度はそのままガリーを素直に下る。やれやれ、8:00 三の窓に到着だ。
この時点で予定より1時間ほどの遅れだ。

この1時間の遅れが、今後の行程に大きく響くことになった事はこの時点ではまだ誰も知る由もなかった。

ネットでよく目にする一枚

 雪渓のトラバースは少しなのでアイゼンを履くかどうか迷うところだったがせっかく持ってきたことだし先行PTもいるので慌てて進んだところで待ちが長くなるだけなのでアイゼンを履いた。実際雪渓に乗ってみると意外に硬くよく滑った。

タカに借りたアイゼンを適当につけすぎて途中で外れる

取り付き手前で準備しながら順番待ちをした。

チンネ左稜線 1ピッチ目(トポ上2ピッチ目フェース40m Ⅳ) 9:45 スタート 

トポでは1ピッチ目 15m Ⅲとあるがこれは登らずテラスに取り付いた。
 ※今後のピッチ表記はトポに準ずる。


 私が2ピッチ目の終了点につくとでは先行PTのリードもまだそこにいて何やら様子がおかしかった。男性と女性の2人組のPTだが女性の方の体調がすぐれないようだ。
少し休憩して様子を見るとのことだったので先に行かせてもらった。

3ピッチ目 ロケーションが素晴らしい

たぶん3ピッチ目終了点

きっと4ピッチ目

おそらく5ピッチ目

6ピッチ目を登るまぢこだと思う

11:56 6ピッチ目終了点かな?

このタイミングで先行PT(3人組)に追いつく。

このPTに追いつくまでは順調で実際ここまでにかかった時間は2時間ほどだ。

残りのピッチ数は6つ。かかっても3時間くらいか?遅くても15:00にはトップアウトできるとこの時点では予想していた。

15:00トップアウトなら今の時期なら何とか日暮れ前には北方稜線は越え剱岳まで戻れると思っていた。

しかし、世の中はそんなに甘くもないし自分の思い通りにはならないものなのだ。
ここからが長い。長かった。

先行PTが遅々として進まない。我々よりも先に取り付いているのだから別に文句を言うつもりもないし、そんなことを言う資格も当然無い。そもそも悪いのは池ノ谷ガリーでルートを外しその間に先を越された我々なのだから。

7ピッチ目のはず?

きっと、ここら辺も7ピッチ目




13:30 核心手前 

なぜか1ピッチ進むのに1時間半もかかる。この辺りでいろんなことをあきらめる。
まぢこはお昼寝しだす。

チンネ左稜線 核心

この時点で14:20分。いったい何があったんだ?

小ハング越えの核心部は左側から抜けた。先行PTは右側から抜けていたが正解はどっちだろう。
だた、右側は残置が見当たらなく左側には2か所あった。

取り付く前は少し難しそうに見えるが実際はホールドも多く落ち着いてこなせばなんてことの無い場所だ。ただ高度感だけはすごいがw

核心部を越えた まぢこ

地獄から這い上がってきた人

たぶん10ピッチ目

もうよく分からないけど終わりらへん

この辺りから残りのピッチの写真がない。
もう。とにかく早く終わりたい。

そこから先も待って。待って。待って。待って。待って。17:30 トップアウト。
一体何時間待ったんだ?

しかし、さっきも書いたが先に取り付くことができなかった我々が悪い。
だから、我々はいつまでも待さ。例え日が暮れると分かっていても。

どうにかトップアウトして下山の準備にかかる。

一応25m3ピッチの懸垂とあるが初めの1ピッチ目はクラムダウンできるので我々は2ピッチ目から懸垂することにした。

ここでもいろいろあって(我々ではないが)待ち時間が長くなる。

18:13 やっと降りられる

ガレが酷いく先行者もいるためロープは投げずに持って懸垂する方が良い。

まぢこ懸垂中
ワンポイントアドバイス
懸垂2番手以降はロープの位置はなるべくそのままに懸垂すること。
特にこのような場所では。途中で勝手に降りるルートを変えロープを振ると落石を起こす。

最終懸垂ポイント(夕日で映える私w)

18:46 何とか池ノ谷ガリーまで戻ってきた。

夕日で映えるまぢこ

さて、改めてここからだ。
一応というか、最悪ビバークできる準備はあるが悩ましいところだ。

とりあえずガリーを登り返し乗越まで行く。
ああ、日が沈む。まだ沈まないでくれと祈る。それでも世の理は変わらない。
無情にも日は沈み辺りは闇に包まれていく。

私も含め全員が体力的にはまだ問題がないと判断し、三日月だが月明りもあるのでとりあえず剱岳を目指し北方稜線を進むことにする。

それでもやはり暗く先がわからないため行ってみて行き詰ることも何回かあったが何とか最後の本峰の登り返しまでたどり着いた。

あとは素直に登るだけだ。

20:42 本日2度目の山頂

何とか北方稜線を無事に越え本峰まで戻ってくることができた。
ここからは多少の岩場や悪路はあるが一般道だ。後は2時間半もあれば早月小屋に帰れる。

やれやれだ。

しかし、この安堵感が良くなかった。
山頂を後に下山を開始した直後に来る疲労感が凄まじい。一気に身体が重くなる。

まあ考えてみればこの時点での行動時間が20時間越えと思えばまだ動いている方か?

流石のまぢこも辛そうだ。持ち主の電池が切れる前にまぢこのヘッデンの充電が切れる。
タカはいつも辛そうなのでいつもと変わらない。ある意味強いなw

私が座ってるとまぢこが「今座ると立てなくなりそうなんで先に進んでもいいか」という。
「すぐに後を追うのでかまわない」と告げるとまぢこは先に進んでいった。

私もすぐに追いかけようと立ち上がり先に進むと鎖場になっているので鎖をつかんで降りようとするとすぐ横にあるもう一つの鎖を握って何故かまぢこが登ってきた。お互い目が合うとまぢこは不思議そうに「どこから来ました?」と聞く。

そんなまぢこに私は「どこに行くの?」っと聞き返す。

その鎖場はどうも登り用と下り用で2本張られていてペンキで矢印も書かれていた。
まぢこは降り切ったすぐ横にある上矢印に引きずられ登ってきたようだ。

まぢこ疲労のピークはきっとこの辺りだろう。

もしも、このタイミングで私に合わなければバターになるまでぐるぐるとこの場所を回っていたに違いない。

しかしこの出来事で笑いをもらい皆少し元気が出る。

小屋まであと標高差400m CT1時間、あと少しだ。だがこの1時間があり得ないほど長く感じた。

途中、何度か座り込むもなんとか進む。目の前に急にテントが現れる。

ついた、、、。

23:50 早月小屋 帰還。

行動時間 約23時間 私にとっても記録更新だw

当然だが小屋も閉まっているし水場もない。
テントに置いていったまぢこのプラティパスに残った水を3人で分けた。

配分された水は1人コップ1杯程度。下山の途中で水は尽き焼けた喉を潤すには少し足らなかったがそれでも生き返る。

そして、着替えも片付けも酒も飯も思い出話もすべてを投げ出し3人とも倒れる様に眠りについた。

8/12 6:30 起床

何もしたくないがコーヒーは飲みたい。

まぢこにコーヒーを煎れてもらいダラダラする。

朝食も作るのが面倒なので行動食の残りで済ます。

もっとダラダラしていたいのだが日が高くなるにつれ暑くてテントの中にいられなくなる。



あきらめて片付け始める


それでもあきらめずダラダラしようとする女

何時かはっきり覚えていないが9時前に早月小屋を後にする。

帰りはタカとまじこで共同装備を分担してくれて私の荷物がずいぶん軽くなり楽させてもらった。

あと一言だけ。
標高1800m付近で休憩していた年配の3人組の方に一言いいたい。
登山道の真ん中で椅子出して休憩するのはやめてください。とってもじゃまです。
その場で一言言おうかとも思ったのだが喧嘩になりそうな相手に見えたので辞めておいた。なぜなら今の私に残された気力と体力では小学生にも勝てる気がしないので。
気の弱い私とは違い、まぢこは強いので何か言っていたようだがw


12:40 馬場島到着。

馬場島には今回参加できなかったサトちゃんが出迎えてくれた。

デリカシーは無いが気はきくサトちゃんは馬場島には自販機がないので我々のためにクーラーボックスによく冷えたジュースを入れて持ってきてくれていた。

余談だが、下山途中で私が「サトちゃんきっと馬場島にジュース持って待ってってくれてるよ」っと言ったら、まぢこは「期待してしまうのでそんなこと言わないで下さい」っと言っていた。

無事下山

おまけ

 アタック日の行動時間が23時間だったことをサトちゃんに伝えたら「あ~行かなくてよかった!」っと嬉しそうに言っていた。


総評
ずっと憧れていたチンネに最高の仲間と最高の天気に恵まれ行けたことに先ずは感謝。

北方稜線に入ってからチンネを抜けるまでどこを見ても本当に素晴らしいロケーションだった。

トップアウトした時間は遅くなってしまったがそのおかげで夕日に染まる素晴らしい景色も見ることができた。

チンネ左稜線自体は特には難しい場所は無く終始快適なクライミングだった。
残置は豊富だがどれも古いので使い方には注意が必要だ。
カムは3番以下1セット持っていたが登攀中に使ったのは0.3くらいだ。
あとは終了点の補強で0.75を1回使った。

しかし暗闇の北方稜線は怖い。
そのせいもあってチンネ左稜線の登攀の記憶がかすんでしまった。

剱岳早月尾根・北方稜線 それぞれを目標にして頑張っている人も多いと思う。
そんなルートをアプローチと呼ぶ我々アルパインクライマーはやはりどこかイカレているのだろう。

今回も本チャンに来て、他のパーティーの動きを見て思うところはたくさんあった。
私も人の事をとやかく言う前に自身や仲間のやっていることが恥ずかしくないか今一度確認しようと思った。


おしまい。


帰りにサトちゃんに連れて行ってもらったお店で食べた白エビのかき揚げ丼































































2024年2月26日月曜日

錫杖岳 前衛壁 3ルンぜ


 期日 2024/02/24(土)

山域 北アルプス 錫杖岳 前衛壁 3ルンぜ

メンバー Kazu , くま , サトちゃん , タカ 計4名

 前週末に行った地獄尾根の疲れがなかなか抜けず、今週末は勝手に完全レスト日として嫁との攻防を制しソファーから一歩たりとも動かないで過ごせるかどうかという無謀なチャレンジをしてみようと思っていた。

 しかし、気がつけば世間は3連休。天気予報を見ると土曜日はよさそうだ。

私のソファーから一歩も動かないは日曜日にチャレンジすることとし土曜日はどこかに日帰りで山行に行くことにした。

 それでも3連休を控えた週末に急に山行を計画したところで皆すでに予定は埋まっているかも?実は密かに錫杖に行きたいと考えていたのでのパートナーは必要だ。

とりあえず、暇そうな連中に連絡してみることに、そして集まったのが今回のメンバーだ。

タカは暇人なので秒で参加表明。

クマはいろいろ不安でギリギリまで迷った挙句参加。

サトちゃんはメンバーみて仕方がないので保護者で参加してくれた。

昨シーズンはタイミングが合わなく2年ぶりの冬の錫杖だ。

前回はいろいろあって敗退しているので今回はできればトップアウトしたいと密かに思っていた。

2024/02/24

深夜1時にクマ・タカに迎えに来てもらい出発。

4時過ぎに中尾高原の駐車場でサトちゃんと合流。

4時30分 出発。

雪が少ない。

リヤ谷の登山道も雪は少なく、トレースもあり順調に進む。

始めの渡渉点の水量はかなり多く感じたが、誰もドボンすることなく無事に渡れた。

渡渉点を通過し短い急登をこなすとなだらかな斜面になりそのまま少し進むと本日登攀する錫杖の前衛壁が見えてくる。

中央に見える顕著なコルが3ルンゼ

この時点では天候は晴天。白と青のコントラストの中央に浮かぶ錫杖からは荘厳さを感じずにはいられなかった。

夏場は錫杖沢の出会いから沢沿いに進むのだが、冬場は雪崩のこともあり岩舎まで行き樹林帯を抜け3ルンゼに取り付く。

雪が少なく岩舎手前でも渡渉するはめになった。


岩舎手前の渡渉

ここで、クマがドボンする。
一瞬だったので何とか靴の中を濡らさずにすんだ。

渡渉すれば岩舎は目の前だった。

岩舎には見覚えのあるテントが1つ。知り合いだった。
前日に3ルンゼに行ったそうだが状況が悪くていろいろあったようだ。

岩舎前で

彼らに前日の情報もらいながら場所も少し借りて登攀準備をする。

この気温と彼らからもらった情報で3ルンゼのコンディションが最悪なことは容易に想像できた。

3ルンゼは各パートともに初めにチョックストーンの岩場を越えあとは雪壁を登るというスタイルになる。

氷がしっかりとついてさえいればそこまで難しいルートではないのだが氷が少ないとなかなか手ごわいルートになる。

サトちゃんは「だから氷ないって言ったでしょ」取り付きみて記念写真撮って帰りましょう。と言い。クマ・タカもその言葉に乗っかる。

私もその場の空気に合わせ「まあ、行くだけ行ってダメなら帰ろう」とは言ってみたが実は2年前の敗退の事もあって今回は前回と同様の条件下でトライしトップアウトしたかったのが本音であった。

仮に敗退になったとしてもチャレンジだけはしたかった。

そんな私の気持ちを汲んでか、とりあえずは行ってみることになった。

岩舎からはの登りはきつい

今回は4人なので2パティーに分けトライ。編成は私とクマ。サトちゃんとタカだ。
氷は少ないどころか全くない。雪もグズグズで悪そうだ。

リードは少しばかり厳しい戦いになりそうなので今回はザックをパーティーで1つにし、フォローが背負うことにした。

おかげで私は取り付きまでもずいぶん楽をさせてもらえた。

取り付き手前の最後のセーフティーゾーンで腹ごしらえ

8:30 3ルンゼ 登攀スタート

少ないとはいえF1はしっかり埋まって見えた。

とりあえずはロープは出さずF1を進む。この時点ではまだ雪もしまっていた。

下から見ると雪はしっかりあるように見えたのだがところどころ大きく口を開けていた。

F2の少し手前から露岩部が多くなりロープを出すことに。

私が少々ルンゼ内を突っ込みすぎたためF2の抜け口でいきなり緊張を要する登攀になってしまった。

サトちゃんはそんな私を見てか上手く回り込み弱点を突いた良いルート取りをしていた。

F2の抜け口で思わず声が出る。その声とともに私のスイッチが入ったようだ。

そのまま少し雪壁を上がり終了点に。クマをフォローする。

F3 ここが今回の核心だったと思う。

氷の全くない壁を登る。残置ハーケンはあるが信頼度は低い。
カムを使えそうな場所もない。

くまはそれを見て「ここ行くんすか?」「ルート違ってませんか?」を壊れた昔のレコード盤のように繰り返す。

それでも、ここしか登れそうな場所は無いのでとりあえず取り付いてみることにした。

岩は一枚のように感じるが、上下二段になっていて下部の岩から上部の岩に移る場所が厳しかった。

乗越部分には氷もなく雪もうっすらあるだけでバイルを打ち込もうと振っても岩に弾かれ鈍い音を出すだけだ。その音を聞くたびに絶望感を感じた。

F3 出だし核心

なんとかバイルのかかる場所を見つけアイゼンは額のシワほどの溝に置き手足にかかる力をできる限りすべてに全てに分散しどれか一つでも外れないことを祈るような気持ちで身体を上に引き上げた。

なんとか岩部分を越え少し雪壁を進むと終了点がある。

なんとも心もとない終了点だが少し補強してフォローを迎えるためコールした。

クマから「登ります」のコールはあったもののロープは緩んでこない。

ガリガリとアイゼンで岩をかく音は聞こえるのだが、、、。

しばらく、頑張っていたようだが「登れません」と声が聞こえた。

いつもの私ならここで辞めていたかもしれないが渋いクライミングをこなしたばかりでアドレナリンが大量に出ていたのだろうか?今現状で辞めるという選択肢は許さなかった。

初めての錫杖。条件は最悪と言ってもいい。しかも本格的な冬季登攀は初めてのクマ。

私からのアドバイスは「いいから登ってこい」「気合で登れ」「A0でもなんでもしろ」だ。

もう、アドバイスというよりも罵声に近い。

こんなアドバイスだけで登らされるクマは今思えばかわいそうだ。今思えば。

雪壁の端から見えたクマの顔は少し老けてみえた。

終了点でセルフを取りクマの口から出た最初の言葉は「頭おかしくないっすか?」だった。

後続のサトちゃん達も気になる。この日、我々の後は誰もいないので少し待ちながら休憩することにした。

暫くすると予想はしていたが「無理~~」っというコールがした。

クマのロープを外し別パーティーのサトちゃんをフォローで上げた。

フォローで登ってくるサトちゃんを見ていたが技術的には問題ないように見えた。

ただ、ただメンタルの問題なのだろう。

F2をリードしていたサトちゃんとF3で心折れたサトちゃんは別人のようだったがこっちが通常のサトちゃんだということを私はよく知っている。

タカの事はサトちゃんに任せて私とクマは先に進むことにする。

いつも、ニコニコして笑顔を絶やさないクマなのだが、この辺りからクマは笑顔を見せなくなった。

F3の終了点からそのままF4に繋いでもよいとは思うがF4の基部に支点が見えたためそこまで移動してから取り付くことにした。

そこまではクマがリードした。

7~8mの移動で簡単そうな場所だが、この辺りから雪が腐ってきて意外と悪く感じた。

F4はチムニー内をくぐって抜けたあとは毎度の雪壁を少し登れば終了だ。

ここも氷があればなんてことなく登れるのだろうが氷は無い。

今までの登攀で抜け口の状況も気になる。それでも行ってみないと分からないので取り付いた。

F4チムニー内


出口は悪かったが、穴から上半身を出しそこからいっぱいで手を伸ばした場所にはバイルはよくきいてくれた。

F3に比べればずいぶん楽な登攀に感じた私はサトちゃんたちのことは置いていくことにした。

F5の取り付きに移動しようとしたとき、サトちゃんから「帰る~」「降りる~」の敗退コールがあった。

私は当然止める気はないのでクマの悲しそうな顔は見ないふりをしてF5の取り付きに進んだ。

F3以降、クマは身体のあちこちが「ツル」アピールも忘れずに私にしていたが聞こえないふりをしていたことは秘密だ。

後で聞いたのだが「ツリ」止めの漢方薬を私の知らないところで3度も飲んでいたそうだ。

通常このF5もルンゼ左側の氷を登るのだが氷があるのは抜け口から2mほど残っているだけだった。

ルンゼ右の悪い岩から上部にあるチョックストーンに乗りルンゼ左に残った氷に取り付くようにルートを選んだ。

この残った氷は厚みもあり今回初めてスクリューを使った。

ただ、落ちればそこにある氷ごと全部落ちそうな気はしたが、それでも有るか無いかで気持ち的にはずいぶん楽になる。

すでに満身創痍で力尽きそうなクマに「ここが最後のクライミングだ。」と激を飛ばした。

最後の力を振り絞って上がってきたクマは次にF6があることを知って絶望していた。

F6は人工登攀になるので私はクライミングは最後というつもりで言ったのだが、、、。

すまん。

F6の人工部分をこなし雪壁に取り付く。人工部分より雪壁に乗り移る場所の雪がクズクズで悪い。足を置くと崩れていく。

崩れる足元に注意しながら30m先に見えるコルを目指す。

いよいよ最後だ。

コルに到着し灌木で支点を作りクマを迎える。

最後の雪壁を登るクマの顔は泣いている様にも笑っている様にもみえた。

これが本当に最後の雪壁だ

無事にすべてのピッチを終了し二人でコルに到着したのは13:55だった。

F6終了点にたどり着いたクマ。いい顔してるよw

クマが撮ってくれたんで私も

予報に反しガス覆われ視界が悪い。コルから下をのぞき込むと地獄への入口に見えた。

サトちゃんたちが下で私たちの帰りを待っているのであまりゆっくりはしていられない。

クマとお互いの健闘を称えあい少しだけ休憩して下山の準備を始めた。

下山は懸垂で一気に下降する。


数回の懸垂をするとF1の基部にサトちゃんとタカの姿が見えた。

私はてっきり岩舎で待っていてくれると思っていたのだが最後の懸垂ロープを私たちのために残してその場で待っていてくれていたようだ。2時間も。

無事にサトちゃんたちと合流し岩舎へ戻り大休止をとり下山の準備をした。

サトちゃんは年末におしりの手術をして以来まともな登山をしていない。

2週間前にアイスクライミングに行って30分ほど歩いただけで今シーズンアイゼンを履いたのが2回めなのに前回より前に進んだので良しとすると言っていた。

なんて潔い男なんだ!。そんな状態でも私に付き合ってくれるサトちゃんが私は大好きだ。

タカは初めての冬の錫杖に来られことで満足しているようだ。

次は自身の力でチャレンジしてほしいものだ。

そしてクマは、、、。

とても辛く苦しい登攀だったがよい経験ができた。などとそれっぽい言葉を言ってはいたが本音はどうも違っていたようだ。

サトちゃんとタカにどれだけ酷い仕打ちにあったかを私がいることを気にもせず熱く語っていた。その内容に関してはちょっとここには書きたくないw。

そのままにしておくといつまでもクマが私の悪口を言い続けそうなので下山することにした。

岩舎から2時間ほどで駐車場に戻った。今日はヘッデン下山は免れた。

サトちゃんとはここで別れ、帰路に就いた。

高山でクマおすすめの風呂屋によって王将で飯を食った。2人から飲んでも良いとの許可を得たので私だけビールを飲ませてもらった。

私は久しぶりに充実し、満足感を得られた山行になった。
F3を越えてからはもうどこを登っても落ちなる気がしなかった。

Dが4年に1度くらいあるという「今日は岩が小さく見える」というゾーンに私も今回初めて入った気がしたw。

たいそうな書き方をしたが所詮は錫杖の中では初級に位置付けされているルートだ。
それでも今回のような悪条件下でトップアウトできたことはうれしく思う。

今回連れて行ったタカとクマが来年は2人でトライしてくれることを願いつつ、今回の記録はこの辺りで〆るとしょう。

おつかれさん

追伸

 書くまでもない事だとは思うが翌日の日曜日に私がソファーに座っていたのはほんの一瞬だった。










































































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