2024年8月17日土曜日

剱岳 チンネ左稜線

剱岳 山頂より

期日 2024/8/10~8/12
山域 北アルプス 剱岳 チンネ左稜線 (早月尾根~)
メンバー かず・たか・まぢこ

チンネに行きたい。今年こそは!

私にとって憧れの場所の一つである剱岳チンネ。
何年も前から計画する度に、台風の襲撃や大雨などで何度も計画倒れになってきた私にとって相性の悪い場所の一つだ。

そんなチンネだが今回やっと行くことができた。
予報では、アタック日の午後からの天候に少し不安はあったが実際に行ってみれば午後から多少ガスにまかれた程度で素晴らしい天候とロケーションの中まさにThe・Alpineを感じることのできる素晴らしい山行になった。

8/10 AM 3:00 名古屋発  AM7:00 馬場島着

上の駐車場はすでにいっぱいなのであきらめて一番下の駐車場に駐車。
大量のアブと闘いながら準備を済ませて7:40出発。

早月小屋には水場がないため各自余分に2㍑ずつ持つことにした。
この時点で私の荷物は、なぜか27㌔
ちなみにだが、まぢこ17㌔ たか25㌔

お約束の写真(まだ元気w)

本日は早月小屋まで。時間的には余裕があるのでのんびりスタートした。

歩き始めていきなりの急登。息が切れ、汗が吹き出さす。
流石は北アルプス3大急登だw。その後はしばらく傾斜が緩くなり、ちょうど良いタイミングで1ピッチ目が終わる。(ピッチ表記は山と高原地図のCTのポイント位置によるもの)
馬場島から早月小屋までは4ピッチだ。

写真中央のコルが三の窓

休憩しながら見える三の窓の遠さを改めて実感しながら先に進んだ。

暑い暑いと言いながら歩いているうちに2ピッチ目も終わる。

1600mm 地点にて

 この辺りを過ぎたころからタカの足がツリ始める。(もうすっかりお約束だなw)
今回は見ていて流石に可哀そうだったので荷物を少し持ってあげることにした。
私はロープを。まぢこは食材を。
この時点から私の荷物は30㌔弱、まぢこも20㌔ほどになった。
では、タカの荷物は?計算が得意な方ばかりではないかもしれないので一応正解を書いておこう。20㌔だ。

そして、この辺りから斜度が上がってくる。
タカと携帯電話がつながることを確認し私とまぢこは先に進むのでゆっくり上がってくるようにと言い残し先に進んだ。

じじいな私は当然だがまぢこもきつそうだ。それでも小屋まではあと半分と思い足を進める。

暑さと、重荷に息を切らせ苦痛に耐える。なんなら少し笑えてきた。

試練と苦痛 憧れは無しで

なんとか3ピッチ目も終わりに近づき小屋まで残すところ標高差で300mほどの辺りでタカが追い付いてきた。ずいぶん調子が良くなったようで私は嫌味も含めて「早いね」っと声をかけると嬉しそうな顔で「荷物軽いっす!」元気いっぱいに答えてきた。やはりポンコツ of  the ポンコツだ。

さっきもらった荷物を返してやろうかとも思ったのだが、また持たせて足がつられると鬱陶しいのでとりあえずそのまま先に進むことにしたが、私の事は良いとしても、まぢこに渡した分でさえもスルーしたタカには男として先輩としてのプライドはどうなっているのか今度会ったときにでも聞いてみようと思う。

そんなこんなで14:40 早月小屋到着。この暑さと荷物でこの時間ならまぁ良しとしておこうw

受付を済ませ幕営してビールを飲む。これだけ汗をかいた後なのでいつも美味いがいつも以上に美味く感じる。

少しだらだらした後、少々早めではあるが明日の出発時間が早いので夕食の準備をしてもらう。


本日の夕食はビーフシチューハンバーグご飯だった。

おいしかったです。

この日は流石に宴会はせずに19時前には就寝した。

8/11 0:00 起床

 先日の夕方から降っていた雨はやみ空には満点の星空が広がっていた。

朝食は食べる気がしないのでコーヒーだけ煎れて飲んだ。

なので朝食は各自のタイミングで行動食を取ることにした。

準備を済ませ予定通り1:00に早月小屋を出発した。

ひんやりとした空気と夜露で湿った緑の匂いが心地よく、月明りは無いが満点の星空に抱かれながら剱岳山頂を目指した。


山頂手前

4:15 剱岳山頂

まぢこ 剱岳初登頂

 チンネには室堂から入山し剱沢~長次郎谷~三の窓で行きたかったのだが、雪渓の具合がよく分からない(昨年の雪の少なさとこの暑さを考えれば良いわけがない)ので下手にそこでリスクと時間をかけるより、時間の読める早月からの方が良いのでは?っと今回早月から計画したのだが、まぢこ的には一番初めに剱岳の山頂を踏めたので良かったと思う。

北方稜線に入るには少し暗いため山頂でご来光を待ってから先に進むことにした。


『 夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ 』

 岩に腰かけて暁色を帯び始めた東の空を見つめながら、たまたまちょっと知ってる百人一首をの一句を思い出したりして、「俺もなかなかに風流だな」などと自分に酔っていると山頂はすごい人になっていた。


剱岳山頂 出発前

 沢山の人を背に剱岳山頂を後にする。


北方稜線に入るとさっきまでの雑踏が嘘のように静かになる。
朝日に照らされた暁色の岩肌と谷から吹き上げる冷たい風が心地よい緊張感を誘う。


順調に歩を進め池の谷ガリーに入る。


ガリーを下れば三の窓、そこからチンネ左稜線取り付きはもう目と鼻の先だ。

、、、、、。

の、はずだったが流石はポンコツ!ここでやらかす。

なぜか勝手に三の窓手前で右側に見える踏み後に引っ張られルートを外れる。
終了点を見つけ嬉しくなりそれに引っ張られガレを登る。

そして我に返る。

ん?ちょっとまて。これってチンネ終了後の懸垂ルートじゃねぇ??

なぜこんなことになったのかは未だにわからないw

気を取り直し引き返しガリーに戻る。
今度はそのままガリーを素直に下る。やれやれ、8:00 三の窓に到着だ。
この時点で予定より1時間ほどの遅れだ。

この1時間の遅れが、今後の行程に大きく響くことになった事はこの時点ではまだ誰も知る由もなかった。

ネットでよく目にする一枚

 雪渓のトラバースは少しなのでアイゼンを履くかどうか迷うところだったがせっかく持ってきたことだし先行PTもいるので慌てて進んだところで待ちが長くなるだけなのでアイゼンを履いた。実際雪渓に乗ってみると意外に硬くよく滑った。

タカに借りたアイゼンを適当につけすぎて途中で外れる

取り付き手前で準備しながら順番待ちをした。

チンネ左稜線 1ピッチ目(トポ上2ピッチ目フェース40m Ⅳ) 9:45 スタート 

トポでは1ピッチ目 15m Ⅲとあるがこれは登らずテラスに取り付いた。
 ※今後のピッチ表記はトポに準ずる。


 私が2ピッチ目の終了点につくとでは先行PTのリードもまだそこにいて何やら様子がおかしかった。男性と女性の2人組のPTだが女性の方の体調がすぐれないようだ。
少し休憩して様子を見るとのことだったので先に行かせてもらった。

3ピッチ目 ロケーションが素晴らしい

たぶん3ピッチ目終了点

きっと4ピッチ目

おそらく5ピッチ目

6ピッチ目を登るまぢこだと思う

11:56 6ピッチ目終了点かな?

このタイミングで先行PT(3人組)に追いつく。

このPTに追いつくまでは順調で実際ここまでにかかった時間は2時間ほどだ。

残りのピッチ数は6つ。かかっても3時間くらいか?遅くても15:00にはトップアウトできるとこの時点では予想していた。

15:00トップアウトなら今の時期なら何とか日暮れ前には北方稜線は越え剱岳まで戻れると思っていた。

しかし、世の中はそんなに甘くもないし自分の思い通りにはならないものなのだ。
ここからが長い。長かった。

先行PTが遅々として進まない。我々よりも先に取り付いているのだから別に文句を言うつもりもないし、そんなことを言う資格も当然無い。そもそも悪いのは池ノ谷ガリーでルートを外しその間に先を越された我々なのだから。

7ピッチ目のはず?

きっと、ここら辺も7ピッチ目




13:30 核心手前 

なぜか1ピッチ進むのに1時間半もかかる。この辺りでいろんなことをあきらめる。
まぢこはお昼寝しだす。

チンネ左稜線 核心

この時点で14:20分。いったい何があったんだ?

小ハング越えの核心部は左側から抜けた。先行PTは右側から抜けていたが正解はどっちだろう。
だた、右側は残置が見当たらなく左側には2か所あった。

取り付く前は少し難しそうに見えるが実際はホールドも多く落ち着いてこなせばなんてことの無い場所だ。ただ高度感だけはすごいがw

核心部を越えた まぢこ

地獄から這い上がってきた人

たぶん10ピッチ目

もうよく分からないけど終わりらへん

この辺りから残りのピッチの写真がない。
もう。とにかく早く終わりたい。

そこから先も待って。待って。待って。待って。待って。17:30 トップアウト。
一体何時間待ったんだ?

しかし、さっきも書いたが先に取り付くことができなかった我々が悪い。
だから、我々はいつまでも待さ。例え日が暮れると分かっていても。

どうにかトップアウトして下山の準備にかかる。

一応25m3ピッチの懸垂とあるが初めの1ピッチ目はクラムダウンできるので我々は2ピッチ目から懸垂することにした。

ここでもいろいろあって(我々ではないが)待ち時間が長くなる。

18:13 やっと降りられる

ガレが酷いく先行者もいるためロープは投げずに持って懸垂する方が良い。

まぢこ懸垂中
ワンポイントアドバイス
懸垂2番手以降はロープの位置はなるべくそのままに懸垂すること。
特にこのような場所では。途中で勝手に降りるルートを変えロープを振ると落石を起こす。

最終懸垂ポイント(夕日で映える私w)

18:46 何とか池ノ谷ガリーまで戻ってきた。

夕日で映えるまぢこ

さて、改めてここからだ。
一応というか、最悪ビバークできる準備はあるが悩ましいところだ。

とりあえずガリーを登り返し乗越まで行く。
ああ、日が沈む。まだ沈まないでくれと祈る。それでも世の理は変わらない。
無情にも日は沈み辺りは闇に包まれていく。

私も含め全員が体力的にはまだ問題がないと判断し、三日月だが月明りもあるのでとりあえず剱岳を目指し北方稜線を進むことにする。

それでもやはり暗く先がわからないため行ってみて行き詰ることも何回かあったが何とか最後の本峰の登り返しまでたどり着いた。

あとは素直に登るだけだ。

20:42 本日2度目の山頂

何とか北方稜線を無事に越え本峰まで戻ってくることができた。
ここからは多少の岩場や悪路はあるが一般道だ。後は2時間半もあれば早月小屋に帰れる。

やれやれだ。

しかし、この安堵感が良くなかった。
山頂を後に下山を開始した直後に来る疲労感が凄まじい。一気に身体が重くなる。

まあ考えてみればこの時点での行動時間が20時間越えと思えばまだ動いている方か?

流石のまぢこも辛そうだ。持ち主の電池が切れる前にまぢこのヘッデンの充電が切れる。
タカはいつも辛そうなのでいつもと変わらない。ある意味強いなw

私が座ってるとまぢこが「今座ると立てなくなりそうなんで先に進んでもいいか」という。
「すぐに後を追うのでかまわない」と告げるとまぢこは先に進んでいった。

私もすぐに追いかけようと立ち上がり先に進むと鎖場になっているので鎖をつかんで降りようとするとすぐ横にあるもう一つの鎖を握って何故かまぢこが登ってきた。お互い目が合うとまぢこは不思議そうに「どこから来ました?」と聞く。

そんなまぢこに私は「どこに行くの?」っと聞き返す。

その鎖場はどうも登り用と下り用で2本張られていてペンキで矢印も書かれていた。
まぢこは降り切ったすぐ横にある上矢印に引きずられ登ってきたようだ。

まぢこ疲労のピークはきっとこの辺りだろう。

もしも、このタイミングで私に合わなければバターになるまでぐるぐるとこの場所を回っていたに違いない。

しかしこの出来事で笑いをもらい皆少し元気が出る。

小屋まであと標高差400m CT1時間、あと少しだ。だがこの1時間があり得ないほど長く感じた。

途中、何度か座り込むもなんとか進む。目の前に急にテントが現れる。

ついた、、、。

23:50 早月小屋 帰還。

行動時間 約23時間 私にとっても記録更新だw

当然だが小屋も閉まっているし水場もない。
テントに置いていったまぢこのプラティパスに残った水を3人で分けた。

配分された水は1人コップ1杯程度。下山の途中で水は尽き焼けた喉を潤すには少し足らなかったがそれでも生き返る。

そして、着替えも片付けも酒も飯も思い出話もすべてを投げ出し3人とも倒れる様に眠りについた。

8/12 6:30 起床

何もしたくないがコーヒーは飲みたい。

まぢこにコーヒーを煎れてもらいダラダラする。

朝食も作るのが面倒なので行動食の残りで済ます。

もっとダラダラしていたいのだが日が高くなるにつれ暑くてテントの中にいられなくなる。



あきらめて片付け始める


それでもあきらめずダラダラしようとする女

何時かはっきり覚えていないが9時前に早月小屋を後にする。

帰りはタカとまじこで共同装備を分担してくれて私の荷物がずいぶん軽くなり楽させてもらった。

あと一言だけ。
標高1800m付近で休憩していた年配の3人組の方に一言いいたい。
登山道の真ん中で椅子出して休憩するのはやめてください。とってもじゃまです。
その場で一言言おうかとも思ったのだが喧嘩になりそうな相手に見えたので辞めておいた。なぜなら今の私に残された気力と体力では小学生にも勝てる気がしないので。
気の弱い私とは違い、まぢこは強いので何か言っていたようだがw


12:40 馬場島到着。

馬場島には今回参加できなかったサトちゃんが出迎えてくれた。

デリカシーは無いが気はきくサトちゃんは馬場島には自販機がないので我々のためにクーラーボックスによく冷えたジュースを入れて持ってきてくれていた。

余談だが、下山途中で私が「サトちゃんきっと馬場島にジュース持って待ってってくれてるよ」っと言ったら、まぢこは「期待してしまうのでそんなこと言わないで下さい」っと言っていた。

無事下山

おまけ

 アタック日の行動時間が23時間だったことをサトちゃんに伝えたら「あ~行かなくてよかった!」っと嬉しそうに言っていた。


総評
ずっと憧れていたチンネに最高の仲間と最高の天気に恵まれ行けたことに先ずは感謝。

北方稜線に入ってからチンネを抜けるまでどこを見ても本当に素晴らしいロケーションだった。

トップアウトした時間は遅くなってしまったがそのおかげで夕日に染まる素晴らしい景色も見ることができた。

チンネ左稜線自体は特には難しい場所は無く終始快適なクライミングだった。
残置は豊富だがどれも古いので使い方には注意が必要だ。
カムは3番以下1セット持っていたが登攀中に使ったのは0.3くらいだ。
あとは終了点の補強で0.75を1回使った。

しかし暗闇の北方稜線は怖い。
そのせいもあってチンネ左稜線の登攀の記憶がかすんでしまった。

剱岳早月尾根・北方稜線 それぞれを目標にして頑張っている人も多いと思う。
そんなルートをアプローチと呼ぶ我々アルパインクライマーはやはりどこかイカレているのだろう。

今回も本チャンに来て、他のパーティーの動きを見て思うところはたくさんあった。
私も人の事をとやかく言う前に自身や仲間のやっていることが恥ずかしくないか今一度確認しようと思った。


おしまい。


帰りにサトちゃんに連れて行ってもらったお店で食べた白エビのかき揚げ丼































































2024年5月8日水曜日

残雪期 奥穂高南稜〜北穂高縦走


 期日 2024/5/3~5/5

山域 北アルプス 奥穂高岳(南稜)~北穂高岳

メンバー かず・たか・まぢこ 計3名

~PROLOGUE~

4月の中旬に肉山とまぢこの3人で西穂高西尾根に行くことに。

まぢこ、残雪期 穂高アルパインデビューだ。

西穂高西尾根はアルパインと呼ぶには少し物足りないルートだが一般道とはやはり違う。

ルーファイ含めそれなりの技術は要求される。特にこの時期は雪の残り具合で難易度がずいぶん左右される。

昨今の温暖化の影響かどうかは私にはわからないが北アルプスの雪も少なく前半は、ほぼ藪漕ぎになってしまったが森林限界を越えるころにはそれなりに雪はあった。

全装でのアルパインは私としても久しぶりで少々辛かったのだが、やはり私のアルパインの原点はこのスタイルだと改めて感じられた良い山行になった。

2024年4月 某日 ~                             

 今年も春の大型連休の時期がやってきた。いわゆるゴールデンウィークというやつだ。

今年は新会員のまぢこに残雪期穂高アルパインをさせたく行先をいろいろ考える。

順当に考えれば先ずは北穂東稜辺りが選択肢に浮かんでくる。

1日目 上高地~涸沢BC
2日目 涸沢BC~東稜から北穂。北穂~奥穂縦走~涸沢BC
3日目 涸沢BC~上高地

西穂高西尾根に行く前はこんな感じだろうか?っと思ってはいたのだが西尾根を終えたあとでは少し疑問を感じる部分があり計画を見直した。

最近の流行りのスタイルは荷重を減らしスピード重視。いわゆる「Light&Fast」だ。

ついでなのでここで「Light&Fast」について私なりの見解を述べてみることにする。

つまりは荷物を軽くしてスピードを上げ危険個所にいる時間を短くすることによりリスクを減らすという考え方だ。その反面で何かトラブルなどのイレギュラーには弱くそういう面でのリスクは高くなってしまう。

もちろん、この考え方には賛同できる。

 少し違う話かもしれないが、私の思うアルパインは全装で抜けることに意味があると思っている。

 装備の内容を精査し軽量化に努めることは当然の事だがBCありきで計画をするのは少し違う気がする。同じことのように聞こえるが、初めからBCを基準に計画するのか、計画した結果がBCなのかが私にとって重要なことなのだ。ルートによってはBCを作れないようなルートも沢山ある。それにそんなルートの方が魅力的なルートも多い。

要はBCありきのアルパインばかりやってるとルートの選択肢が減り、やれる幅が狭くなり肝心な時に登れなくなってしまうのではないだろうか。

少し前置きが長くなってしまったが、そんなわけで今回のGWの山行は全装でチャレンジする事にした。2人には少し辛い山行になるかもしれないが、きっと今後につながる良い経験になると信じてチャレンジしてほしい。

計画の概要はこうだ。

1日目 上高地〜岳沢〜南稜〜奥穂高〜穂高岳山荘CP 

2日目 穂高岳山荘CP 〜北穂高〜南岳山荘CP

3日目 南岳山荘CP〜横尾本谷〜上高地

さて、今回の山行はどうなることか?

5/2 21:30 集合・出発 

5/3 5:30 沢渡第2駐車場〜6:00 上高地出発。

沢渡からタクシーで上高地入り。上高地は予想より肌寒かった。

河童橋にてお約束の写真

 登山届けを提出し岳沢に向かって出発する。岳沢までは約2時間の距離だ。

岳沢までは特に面白いことも起こらず予定通りに着く。


岳沢小屋の前で準備をし9:00 南稜の取り付きに向かう。

私の記憶では取り付き(最初の滝)まではすぐの記憶だったが実際には1時間ほどかかった。

やはり私の記憶はあてになら無いことを再度確認できた。

取り付きへ

 取り付きまでは写真で見ても大した斜面には見え無いのだが実際に歩いてみると意外に急登だ。何度か立ち止まり息を整え先に進む。
 雪渓と岩壁の間は少し開いていて乗り移る場所を探す。左側の岩壁に乗り込んで少し上の方から回り込んでスタート地点に向かう。

10:00 南稜スタート。
 まぢこがアイゼンでの登攀にまだあまり慣れてい無いこともあるがロープの使い方や支点の作り方なども見て経験して欲しいので積極的にロープを出していくことにした。

20㌔超えの荷物での登攀はシビレルw

 始めの岩場を越え、草付きの斜面を少し登ると雪渓が出てきた。
天気がよく気温も高いので雪の状態に不安があったがこの時点ではまだマシだった。


この雪渓を登り切った場所に小滝が更に進むと5mほどの岩壁がありそれを越えた所からルートは3つに分かれる。

残雪期は右にルートを取ることが多いようだが今回右側のルートは雪渓が繋がっておらず藪漕ぎになりそうな感じだったので中央のルートを進むことにした。

雪渓は所々割れている場所もあったが正面のスラブ岩壁までそれなりには繋がっていた。

下部スラブの岩壁のトラバース

 下部スラブを大きく右にトラバースして岩場に取り付きそこから2ピッチほどの岩登りになる。初めの出だしが滝沢側に身体を出した所からの登攀になる。そのまま少し上がれば尾根の芯に乗ることができる。出だしの岩を越え少し左に戻るようなイメージで次の岩にとりつくのだがダケカンバに捕まり離陸しにくい。なんとかダケカンバをやり過ごして離陸。ホッとしたのも束の間に今度はロープが出てこない。そういえばこのピッチはまぢこがビレイしていた。

 アルパインではビレイヤーの位置からリードが見えなくなることはよくある事なのでロープが出ていく微妙な感覚を感じ取りロープを送るのだが経験が少ないまぢこにはそこまでの要求はまだしないでおこうと思いロープを出すタイミングを声に出しながらその先に進んだのだが、よく考えてみればまぢこのフォローをするためにタカをサードに置いているのに全く役に立っていない事に気づいた。
タカにロープの送りが悪いことを告げると「かずさんのまぢこちゃんへの指示が優しくて羨ましかった。もし自分なら罵倒されているとこですよ」などと言い。私の思いが全く伝わっていない事を実感した。

各ピッチともに中間支点はそれなりにあるが終了点は見当たらなかった。

2ピッチの登攀を終え少し進むと目の前にチムニーが現れる。チムニーは中に入ると階段上になっていてそのまま進むことができる。チムニーを抜けるといよいよトリコニーの基部だ。
トリコニーの1峰は出だしを滝沢側から巻いて後は岩稜通しで進めばネットなどでよく見かける映えポイントに出る。

なんかちょっとカッコよく見えるのがムカつくw

 1峰を越え2峰の基部へ向かうためにトラバースする。
この時点で雪はかなり腐っていた。それでも場所的に影にはなっているので大丈夫だろうと何の根拠もないまま1歩踏み出す。足元から丸ごと崩れる。危うく滑落するところだった。
根雪から腐っている。なので崩れると地面まで全部落ちてしまうのだ。

シャレにならないのでフィックスを張る

 雪の悪さも勿論だが全装での登攀も影響して思うように進めずトリコニーを超えた時点で17時を過ぎていた。なんとか穂高岳山荘CPまで辿り着きたいのだが時間的に厳しくなってきた。
元々、タイムリミット時はどこか適当な場所でビバークするつもりでいたので焦りは感じなかった。
 ここから先はビバーク適地を探しながら先に進んだのだがなかなか見付からず日没が迫ってきた。私の記憶ではこの辺りに適地があったはずなのだが、そこは私の記憶なので全くあてになら無いことは言うまでもないこと。多分、気づか無い間に過ぎてしまっていたのかルートがズレていたかなのだろう。

 まぢこがそろそろ精神的に限界に近い感じになってきていたのか?どう見ても適地とは言えない場所を見て「ここならビバーク出来そうじゃないですか?」と言う。
 「テントを使わずツェルトで座って一晩過ごすならここでもいいけど」と、返すとそれは嫌だと言う。横になりたいとも言う。外でご飯は寒いとも言う。
「少し掘ればなんとかなりませんか?」とも言う。

 私からすればそんなに掘ることの出来る時間と労力があるのならCPまで行ったほうが良いのでは?っと思った。そんな問答を繰り返したのち、「とりあえず、CPを目指し先に進みこの先で適地があればビバークしよう」と、まぢこを言いくるめ先に進む事にした。

 タカも口に出すと私に叱られるし、先輩としてのプライドもあるのか口には出さなかったがかなり辛そうには見えた。勿論私も。

 目の前の小ピークを越え少し先をみると適地に見える場所が。まぢこと一緒に喜びそうになるが雪面が水平なのは間違いないが問題はリッジになっていないか?、幅があるかだ。気持ちを抑えて、それでも少しの期待を胸に、まぢこの切なる思いを背中に感じながら近づいていく。
 
 神よ。どうか我々に安らぎの場所を、、、w。

この世に神はいないと先日の千丈で知ったはずなのだが、まさかこんなことが起こるとは

そこには素晴らしい安らぎの場所があった。

日没ギリギリでビバーク出来た。

慌てて整地を済ましテントを張る。中に入って少し落ち着いてから、まぢこに食事の準備をしてもらう。待っている時にこうなる事を予想していたのに岳沢小屋でビールを買ってこなかった事を死ぬほど後悔した。すでに20㌔を超えた荷物にビール1缶増えたところで大差はないのに。


まぢこの初ビビーは素晴らしい場所とロケーションだった。

ビールはないが酒は少しだけ持っていたので3人で分けて呑み、その日は疲れもあって早々に就寝した。

5/4  4:00 起床(3時に起床予定だったがなぜか目覚ましが4時にw)
 昨晩の鍋の残りにうどんを入れて朝食にした。

5:45 出発。

小ピークをいくつか越えれば奥穂の山頂が視界に入る。頭まで最後の雪原に差し掛かる。

朝一の雪はしっかり締まっていて気持ちが良い






最後の雪原

山頂目前

6:54 奥穂高岳3190m 登頂


山頂で少しの間、景色を眺め、写真を撮り、思い思いに過ごすし山頂を後にした。

山荘前の最後の下り。ガイドPTがロープ張っていて混雑していた。

8:30 穂高岳山荘到着。のんびり休憩。

 本日の予定は大キレットを越え南岳まで。しかし、すでに前日から予定に遅れが出ていることもあり、一先ず北穂まで行ってからその先の判断をすることにした。

 とはいえ、一応この時点では大キレットを越えられると思っていた。
 まさに知らぬが仏である。

 余談だが、今回の山行がタカと2人だったらこの時点でザイデンから涸沢に下山し、春の涸沢リゾート満喫プランに変更していた可能性はかなり高かったと思う。

9:30 北穂高に向け出発。
 
涸沢岳への登り返しは雪が全くないためアイゼンを外す。

穂高岳山荘常駐の警備隊の方が話しかけてきてくれたので北穂までの状況を聞いてみると雪は少ないが所々残っていて、それがなかなかに悪いという事だった。

涸沢岳に向かっているとき、この状況なら多少雪があっても3時間もあれば北穂まで抜けられるだろうと高を括っていた。

涸沢岳に向かう

 涸沢岳山頂はスルーして先に進む。

いきなり急な下降で鎖場が続くのだが雪解け直ぐなのでか浮石も多く足元も悪い。

涸沢岳直下の下り

 少し下ると雪が出てきた。アイゼンなしでも行けなくはなさそうだが昨日の事もあるので少し慎重になりアイゼンを付けた。結果は正解だった。


 涸沢岳から最低部のコルまで一気に200mほど下降する。
一部雪壁の状況が悪すぎて懸垂で下降した。
 
 何度も書いているが本当に雪が悪い。
特にトラバースには神経を使う。トラバースが多い分、昨日の南稜より神経が磨り減る。

 そんな私の思いも知らずか。タカもまぢこも2人して昨日よりは精神的に楽だという。

それは、君たちが私を生贄にして安全を確認してから雪面に乗っているからだということを忘れないでほしいw

 
最低部のコル直前

それでも天気は最高でそこから見える景色も抜群だ。

すでに日焼けが酷い。しかし下山後仕事に戻った時に「この人は全力で遊んでるんだな」と思われるためにも日焼け+サングラスの痕は必須だ。


適当に休憩をはさみアイゼンを脱いだり履いたりを繰り返しながら北穂沢のコルを目指す。

そのまましばらく進むと北穂側からのパーティーが見えた。
かなりの人数だが、複数パーティーのようだ。

タイミングの悪いことに割と大きな雪渓のトラバース部分でのすれ違いになってしまった。
相手のほうが先にロープの準備をしていたので待つことにした。
6名ほどいたのでしばらく待ちだなっと思っていた。

某大学の山岳部の子たちだった。なかなか気持ちの良い連中で好感がもてた。
女の子がリードしてロープをフィックスしていた。
偉そうにいうつもりは無いがしっかりとした技術で見ていても安心だった。

リードしてるなか後方にいた男子部員はスナック菓子をボリボリ食べていてそれを見た私が「緊張感のない奴だw」と言ったら、まぢこに「かずさんのあくびよりはましですね」っと返された。アルパイン技術の向上よりも先に、まぢこはどんどん雑な女になっていくのだ。

フィックスを張った後、我々に「このロープでよければ先に使って行ってください。」と
ありがたく使わせてもらい先に進んだ。ありがとうございました。

感謝

ついでに彼らにこの先の状況を聴き先に進んだ。2か所ほどロープを出したらしい。

上の写真の岩峰のトップに出るとその先の全景が見える。
そこから見る限り雪のルンゼは残り2か所。おそらくはそこが最後の核心部になるだろう。

予想どおり腐った雪となぜか氷化した斜面をトラバースしながら上部に向かう。

当然フィックスを張る

最後のトラバースは安定していた。

この写真の先が北穂沢のコルだ。


コルに到着したのは15:20。結局6時間もかかってしまった。

 この日は北穂高小屋のCPで幕営するつもりだったので北穂へ向かい足を踏みだす。
ん?北穂小屋?涸沢BCでダメなの?そんな疑問が私の頭に浮かぶ。
その場合北穂の山頂は踏めないが。一旦足を止め振り返り2人に確認する。

2人とも実はそう思っていたらしい。

まぢこはこの時間ならまだ涸沢で生ビール間に合います。っと。
基準はそこか?w

そうと決まれば北穂沢をダッシュで降りる。生ビールに間に合うために。

疲労感はあったが生ビールだけを心の支えに下山する

1時間ほどで涸沢に到着。人間、欲求を満たすためなら思いがけない力を発揮する。

無事涸沢に

タカと二人で幕営の準備をしておくのでまぢこには受付をお願いした。
暫くすると気の利くまぢこは水も汲んで帰ってきた。

「あれ?わたしテントの札消えました」
そこから、3人でテント札遭難救助が始まる。

探してはみたもののそう簡単に見つかるはずもなく。っというよりもビールが飲みたい気持ちが強すぎて早々に捜索活動をあきらめビールをのんだ。

テントに戻る際にまぢこが小屋に届いていないか確認しに行った。

私とタカは先にテントに戻った。しばらくするとまぢこが札を手に帰ってきた。

「見つかりました!」「七不思議です。」「また七不思議が増えました。」
まぢこはなにかしら都合の悪いことが起こると七不思議として処理しようとする癖がある。

実は、昨晩もそこまで寒くはなかったはずなのだが夜半から風が強くなりその辺りから急に寒くなり私はしばらく寒さで眠れなかった。

朝起きてその話をしているときにテントの入り口が網戸になっていることに気づく。
寒いはずだ。

最後に閉めたのはまぢこだ。その時の出来事も七不思議で済ませていた。

小屋で買ったワインを呑みながら、夕食は米を炊いて各自好きな具をかけ済ませた。まぢこが残ったご飯をおにぎりにしてくれたのでありがたく頂いたのだ。見た目も可愛くとてもおいしそうな出来だったのだが、かなりパンチの利いた塩加減だった。

疲れもあったのだろうが3人ともすぐに酔ってしまい19時過ぎには意識不明になってしまった。



5/5 5:00 起床

 本日は上高地までの下山のみ。特に早起きをするつもりもなかったのだがさすがに昨晩早く寝すぎたせいで目が覚めてしまう。


朝食をすませ。撤収準備に取り掛かる。

7:30 涸沢BC 出発

本日のミッションは
 ①徳澤でコーラソフトを食べる。
 ②明神でイワナの塩焼きを食べる。

少々渋滞気味の登山道を本谷に向け歩く。

Sガレを過ぎ本谷のつり橋の少し手前で人だかりが。何かあったようだ。
崖下10mほどのところに2名の方がいた。

1名が滑落して、もう一人が救助に行ったようだ。

詳細は控えるが少しだけお手伝いをしてから先に進んだ。

本谷のつり橋でアイゼンを外し横尾に向かう。

徳澤でミッション①をクリアして明神に向かう。


明神でミッション②をクリアして上高地に向かう。


もうこうなると観光客と変わらない。

この先上高地まで最後のピッチを惰性で歩き上高地到着。

タクシーにて沢渡まで移動。風呂に入って、高山の王将で飯を食って帰宅した。

総評
予想通り雪は少なく、予想以上に各ルート上の雪が悪かった。
全装でのアルパインは厳しくもあるが、それだけでも充実感は大きかった。
結果的に計画通りの遂行はできなかったが各自それなりに得るものはあったと思う。

タカは今年度の目標の1つ。南稜がやれてよかったと思う。
次回は自分で行ってくれ。

まぢこは西尾根に続き穂高でのアルパイン。
西尾根に比べると岩場も危険個所も多い。西尾根ではロープは使わなかったが今回は積極的にロープを使ったことで勉強になることも多かったと思う。この経験をしっかり自分の技術に加えてもらえると嬉しく思う。

ともあれ、各日とも長い行程を事故無く無事に帰ってこれたことは何よりだ。

これで今年の私の雪山は終了だ。そろそろ体重を絞ってクライミングがんばるかなw



















 



























剱岳 チンネ左稜線

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