期日 2024/02/24(土)
山域 北アルプス 錫杖岳 前衛壁 3ルンぜ
メンバー Kazu , くま , サトちゃん , タカ 計4名
前週末に行った地獄尾根の疲れがなかなか抜けず、今週末は勝手に完全レスト日として嫁との攻防を制しソファーから一歩たりとも動かないで過ごせるかどうかという無謀なチャレンジをしてみようと思っていた。
しかし、気がつけば世間は3連休。天気予報を見ると土曜日はよさそうだ。
私のソファーから一歩も動かないは日曜日にチャレンジすることとし土曜日はどこかに日帰りで山行に行くことにした。
それでも3連休を控えた週末に急に山行を計画したところで皆すでに予定は埋まっているかも?実は密かに錫杖に行きたいと考えていたのでのパートナーは必要だ。
とりあえず、暇そうな連中に連絡してみることに、そして集まったのが今回のメンバーだ。
タカは暇人なので秒で参加表明。
クマはいろいろ不安でギリギリまで迷った挙句参加。
サトちゃんはメンバーみて仕方がないので保護者で参加してくれた。
昨シーズンはタイミングが合わなく2年ぶりの冬の錫杖だ。
前回はいろいろあって敗退しているので今回はできればトップアウトしたいと密かに思っていた。
2024/02/24
深夜1時にクマ・タカに迎えに来てもらい出発。
4時過ぎに中尾高原の駐車場でサトちゃんと合流。
4時30分 出発。
雪が少ない。
クリヤ谷の登山道も雪は少なく、トレースもあり順調に進む。
始めの渡渉点の水量はかなり多く感じたが、誰もドボンすることなく無事に渡れた。
渡渉点を通過し短い急登をこなすとなだらかな斜面になりそのまま少し進むと本日登攀する錫杖の前衛壁が見えてくる。
中央に見える顕著なコルが3ルンゼ
この時点では天候は晴天。白と青のコントラストの中央に浮かぶ錫杖からは荘厳さを感じずにはいられなかった。
夏場は錫杖沢の出会いから沢沿いに進むのだが、冬場は雪崩のこともあり岩舎まで行き樹林帯を抜け3ルンゼに取り付く。
雪が少なく岩舎手前でも渡渉するはめになった。
岩舎手前の渡渉
ここで、クマがドボンする。
一瞬だったので何とか靴の中を濡らさずにすんだ。
渡渉すれば岩舎は目の前だった。
岩舎には見覚えのあるテントが1つ。知り合いだった。
前日に3ルンゼに行ったそうだが状況が悪くていろいろあったようだ。
岩舎前で
彼らに前日の情報もらいながら場所も少し借りて登攀準備をする。
この気温と彼らからもらった情報で3ルンゼのコンディションが最悪なことは容易に想像できた。
3ルンゼは各パートともに初めにチョックストーンの岩場を越えあとは雪壁を登るというスタイルになる。
氷がしっかりとついてさえいればそこまで難しいルートではないのだが氷が少ないとなかなか手ごわいルートになる。
サトちゃんは「だから氷ないって言ったでしょ」取り付きみて記念写真撮って帰りましょう。と言い。クマ・タカもその言葉に乗っかる。
私もその場の空気に合わせ「まあ、行くだけ行ってダメなら帰ろう」とは言ってみたが実は2年前の敗退の事もあって今回は前回と同様の条件下でトライしトップアウトしたかったのが本音であった。
仮に敗退になったとしてもチャレンジだけはしたかった。
そんな私の気持ちを汲んでか、とりあえずは行ってみることになった。
岩舎からはの登りはきつい
今回は4人なので2パティーに分けトライ。編成は私とクマ。サトちゃんとタカだ。
氷は少ないどころか全くない。雪もグズグズで悪そうだ。
リードは少しばかり厳しい戦いになりそうなので今回はザックをパーティーで1つにし、フォローが背負うことにした。
おかげで私は取り付きまでもずいぶん楽をさせてもらえた。
取り付き手前の最後のセーフティーゾーンで腹ごしらえ
8:30 3ルンゼ 登攀スタート
少ないとはいえF1はしっかり埋まって見えた。
とりあえずはロープは出さずF1を進む。この時点ではまだ雪もしまっていた。
下から見ると雪はしっかりあるように見えたのだがところどころ大きく口を開けていた。
F2の少し手前から露岩部が多くなりロープを出すことに。
私が少々ルンゼ内を突っ込みすぎたためF2の抜け口でいきなり緊張を要する登攀になってしまった。
サトちゃんはそんな私を見てか上手く回り込み弱点を突いた良いルート取りをしていた。
F2の抜け口で思わず声が出る。その声とともに私のスイッチが入ったようだ。
そのまま少し雪壁を上がり終了点に。クマをフォローする。
F3 ここが今回の核心だったと思う。
氷の全くない壁を登る。残置ハーケンはあるが信頼度は低い。
カムを使えそうな場所もない。
くまはそれを見て「ここ行くんすか?」「ルート違ってませんか?」を壊れた昔のレコード盤のように繰り返す。
それでも、ここしか登れそうな場所は無いのでとりあえず取り付いてみることにした。
岩は一枚のように感じるが、上下二段になっていて下部の岩から上部の岩に移る場所が厳しかった。
乗越部分には氷もなく雪もうっすらあるだけでバイルを打ち込もうと振っても岩に弾かれ鈍い音を出すだけだ。その音を聞くたびに絶望感を感じた。
F3 出だし核心
なんとかバイルのかかる場所を見つけアイゼンは額のシワほどの溝に置き手足にかかる力をできる限りすべてに全てに分散しどれか一つでも外れないことを祈るような気持ちで身体を上に引き上げた。
なんとか岩部分を越え少し雪壁を進むと終了点がある。
なんとも心もとない終了点だが少し補強してフォローを迎えるためコールした。
クマから「登ります」のコールはあったもののロープは緩んでこない。
ガリガリとアイゼンで岩をかく音は聞こえるのだが、、、。
しばらく、頑張っていたようだが「登れません」と声が聞こえた。
いつもの私ならここで辞めていたかもしれないが渋いクライミングをこなしたばかりでアドレナリンが大量に出ていたのだろうか?今現状で辞めるという選択肢は許さなかった。
初めての錫杖。条件は最悪と言ってもいい。しかも本格的な冬季登攀は初めてのクマ。
私からのアドバイスは「いいから登ってこい」「気合で登れ」「A0でもなんでもしろ」だ。
もう、アドバイスというよりも罵声に近い。
こんなアドバイスだけで登らされるクマは今思えばかわいそうだ。今思えば。
雪壁の端から見えたクマの顔は少し老けてみえた。
終了点でセルフを取りクマの口から出た最初の言葉は「頭おかしくないっすか?」だった。
後続のサトちゃん達も気になる。この日、我々の後は誰もいないので少し待ちながら休憩することにした。
暫くすると予想はしていたが「無理~~」っというコールがした。
クマのロープを外し別パーティーのサトちゃんをフォローで上げた。
フォローで登ってくるサトちゃんを見ていたが技術的には問題ないように見えた。
ただ、ただメンタルの問題なのだろう。
F2をリードしていたサトちゃんとF3で心折れたサトちゃんは別人のようだったがこっちが通常のサトちゃんだということを私はよく知っている。
タカの事はサトちゃんに任せて私とクマは先に進むことにする。
いつも、ニコニコして笑顔を絶やさないクマなのだが、この辺りからクマは笑顔を見せなくなった。
F3の終了点からそのままF4に繋いでもよいとは思うがF4の基部に支点が見えたためそこまで移動してから取り付くことにした。
そこまではクマがリードした。
7~8mの移動で簡単そうな場所だが、この辺りから雪が腐ってきて意外と悪く感じた。
F4はチムニー内をくぐって抜けたあとは毎度の雪壁を少し登れば終了だ。
ここも氷があればなんてことなく登れるのだろうが氷は無い。
今までの登攀で抜け口の状況も気になる。それでも行ってみないと分からないので取り付いた。
F4チムニー内
出口は悪かったが、穴から上半身を出しそこからいっぱいで手を伸ばした場所にはバイルはよくきいてくれた。
F3に比べればずいぶん楽な登攀に感じた私はサトちゃんたちのことは置いていくことにした。
F5の取り付きに移動しようとしたとき、サトちゃんから「帰る~」「降りる~」の敗退コールがあった。
私は当然止める気はないのでクマの悲しそうな顔は見ないふりをしてF5の取り付きに進んだ。
F3以降、クマは身体のあちこちが「ツル」アピールも忘れずに私にしていたが聞こえないふりをしていたことは秘密だ。
後で聞いたのだが「ツリ」止めの漢方薬を私の知らないところで3度も飲んでいたそうだ。
通常このF5もルンゼ左側の氷を登るのだが氷があるのは抜け口から2mほど残っているだけだった。
ルンゼ右の悪い岩から上部にあるチョックストーンに乗りルンゼ左に残った氷に取り付くようにルートを選んだ。
この残った氷は厚みもあり今回初めてスクリューを使った。
ただ、落ちればそこにある氷ごと全部落ちそうな気はしたが、それでも有るか無いかで気持ち的にはずいぶん楽になる。
すでに満身創痍で力尽きそうなクマに「ここが最後のクライミングだ。」と激を飛ばした。
最後の力を振り絞って上がってきたクマは次にF6があることを知って絶望していた。
F6は人工登攀になるので私はクライミングは最後というつもりで言ったのだが、、、。
すまん。
F6の人工部分をこなし雪壁に取り付く。人工部分より雪壁に乗り移る場所の雪がクズクズで悪い。足を置くと崩れていく。
崩れる足元に注意しながら30m先に見えるコルを目指す。
いよいよ最後だ。
コルに到着し灌木で支点を作りクマを迎える。
最後の雪壁を登るクマの顔は泣いている様にも笑っている様にもみえた。
これが本当に最後の雪壁だ
無事にすべてのピッチを終了し二人でコルに到着したのは13:55だった。
F6終了点にたどり着いたクマ。いい顔してるよw
クマが撮ってくれたんで私も
予報に反しガス覆われ視界が悪い。コルから下をのぞき込むと地獄への入口に見えた。
サトちゃんたちが下で私たちの帰りを待っているのであまりゆっくりはしていられない。
クマとお互いの健闘を称えあい少しだけ休憩して下山の準備を始めた。
下山は懸垂で一気に下降する。
数回の懸垂をするとF1の基部にサトちゃんとタカの姿が見えた。
私はてっきり岩舎で待っていてくれると思っていたのだが最後の懸垂ロープを私たちのために残してその場で待っていてくれていたようだ。2時間も。
無事にサトちゃんたちと合流し岩舎へ戻り大休止をとり下山の準備をした。
サトちゃんは年末におしりの手術をして以来まともな登山をしていない。
2週間前にアイスクライミングに行って30分ほど歩いただけで今シーズンアイゼンを履いたのが2回めなのに前回より前に進んだので良しとすると言っていた。
なんて潔い男なんだ!。そんな状態でも私に付き合ってくれるサトちゃんが私は大好きだ。
タカは初めての冬の錫杖に来られことで満足しているようだ。
次は自身の力でチャレンジしてほしいものだ。
そしてクマは、、、。
とても辛く苦しい登攀だったがよい経験ができた。などとそれっぽい言葉を言ってはいたが本音はどうも違っていたようだ。
サトちゃんとタカにどれだけ酷い仕打ちにあったかを私がいることを気にもせず熱く語っていた。その内容に関してはちょっとここには書きたくないw。
そのままにしておくといつまでもクマが私の悪口を言い続けそうなので下山することにした。
岩舎から2時間ほどで駐車場に戻った。今日はヘッデン下山は免れた。
サトちゃんとはここで別れ、帰路に就いた。
高山でクマおすすめの風呂屋によって王将で飯を食った。2人から飲んでも良いとの許可を得たので私だけビールを飲ませてもらった。
私は久しぶりに充実し、満足感を得られた山行になった。
F3を越えてからはもうどこを登っても落ちなる気がしなかった。
Dが4年に1度くらいあるという「今日は岩が小さく見える」というゾーンに私も今回初めて入った気がしたw。
たいそうな書き方をしたが所詮は錫杖の中では初級に位置付けされているルートだ。
それでも今回のような悪条件下でトップアウトできたことはうれしく思う。
今回連れて行ったタカとクマが来年は2人でトライしてくれることを願いつつ、今回の記録はこの辺りで〆るとしょう。
おつかれさん
追伸
書くまでもない事だとは思うが翌日の日曜日に私がソファーに座っていたのはほんの一瞬だった。