期日 2025/2/22~24
山域 北アルプス 錫杖岳 前衛峰 1ルンゼ
メンバー かず・MA
昨年から狙っていた錫杖1ルンゼに行ってきました。
結果だけ見れば無事トップアウト。しかしながらパートナーMAの力は大きく、私の力不足を実感してしまう山行となった。
週が明け、アタック日が今週末に迫ってくると心がピリピリし始める。
週が明け、アタック日が今週末に迫ってくると心がピリピリし始める。
仕事をしていても、飲んでいても、嫁に怒られているときでさえも気が付くと錫杖の事を考えている。
そして、TVを見ていても大寒波の事ばかりが目につき始める。これ以上私の事を不安にさせないでほしい。それでも、雪はこれ以上降ってほしくはないが冷え込むことは願ってもない事だ。
不安と期待が交差する少し情緒不安定な週を過ごしながら土曜日の朝をむかえた。
2025/2/22 AM6:00
MAに家まで迎えに来てもらい出発。
9:30 駐車場着 出発。
この日はとりあえず幕営ポイントまでだが雪が多く厳しいラッセルになることも覚悟して入山したのだが新雪自体はそこまで多くもなく、ありがたいことにトレースもあり、せっかく準備してきたワカンと覚悟は無駄になった。
12:30 錫杖沢出会付近
渡渉ポイントは悪く、油断するとドボンしそうな雰囲気だ。
MAが先行する。「あ」あと少しのところでハマる。幸いなことに浸水は免れた。
私も続く。MAがハマった場所ではより一層の注意をしていたはずだが「あ」っとなる。
私も幸いなことに浸水は免れた。
渡渉点をこえて30分も歩くと前衛峰が見えてくる。
いつ見ても、雪と氷の鎧を纏った錫杖は美しくもあるが、その迫力と威圧感は圧巻だ。
そして今回挑戦する1ルンゼは峰を左右に分割するかのように一筋の美しい白線を氷で描き。我々を待っている様にも拒絶している様にもみえた。
この天に向かうかの様に垂直に伸びる白く美しい一筋のラインを一目見れば、このルートに憧れを感じないクライマーはいないのではないかと思うほどだ。
その美しさと迫力に呑まれないように気持ちを強く持ち、「俺たちなら絶対にやれる!」っとMAとお互いを鼓舞しあった。
13:00 岩小屋着。
すでに先行者が幕営していたのでもう少し先の適当な場所を切り出し幕営ポイントとした。
幕営の準備を済ませ、少し落ち着いてから偵察に向かった。
普段なら幕営の準備ができればすぐにでも呑みたい。いや。呑む私だが今回ばかりは呑むことより偵察に行きたいとさえ思ってしまった。
基部までトレースはあったがそこから1ルンゼに向かうトレースは無く距離にすれば短いが上部から落ちてくる雪もあり1ルンゼ取り付き直下では胸ほど沈む場所もあった。
取り付き手前
1ピッチ目
不安視していた1ピッチ目も実際に取り付いてみないと分からないことも多いがここからの見た目には氷と雪もついていてとりあえずはつながってはいる様に見えた。
1ルンゼの取り付き出だしの少しハングしていて困難になると予想していた部分は積雪が多く幸運なことに雪の下に隠れていた。
先行者もいたことで誰か取り付いているかと思っていたがこの日は誰も取り付いていないようだ、まだ誰も触れていない雪と氷が美しい線を描いている。できる事ならこのまま取り付きたい。
そう思っているとMAが「明日は絶対に1番で取り付きましょう」っと。やはり考えることは同じだ。
無事偵察も終え、明日への希望もつないだところで幕営地に戻った。
MAはお酒が飲めないので私だけMAの分まで頑張って呑むことにした。
MAとはもう何年も前から友人だがこうして2人きりでの幕営は初めてだった。
夕飯はMAが準備してくれた味噌鳥鍋を食べながら明日の登攀のことはもちろんだが、クライミングやアルパインについて、はては少し下世話な話など沢山の話をして盛り上がった。
とても楽しく素敵な時間だったが明日の朝は早いので20時には就寝とした。
2/23 アタック日
5時少し前に起床。いつものルーティーン通りコーヒーを沸かし飲む。
昨日の晩飯の残りに棒ラーメンを入れ食べ、準備を済ませて6時出発。
辺りはまだ暗くヘッデンの明かりと昨日つけたトレースを頼りに進んだ。
何故か取り付き基部で昨日つけたルートから外れラッセルしだすMA w
取り付きでガチャ等準備しザックも1つにまとめフォローが背負うことにした。
MAは煙草を吸わないが私は煙草を1本吸って右足から取り付くのがルーティーンなのでそれに付き合ってもらったw
私はアイスパートはあまり得意な方ではないので上部のバーチカルな部分はMAに依存したい。なので1ピッチ目のような泥臭い場所は私の方で処理するつもりだった。
そのことはもちろんMAと打ち合わせ済み。
さぁ、いよいよだ。
初めの一手、右手のバイルを振る。「こつん」っと岩にあたる。
「でしょうね」っと思いながら、それでもギリギリかかるので体を上げる。
左下の丸っこい岩の上部(写真1ピッチ目参照)に乗り込み右側の雪の詰まったルンゼに移ろうとバイルを振るとうっすら張った氷の上に雪が乗っているだけだったので全部なくなっる。「でしょうね」っとここでも思う。仕方がないのでほんの数メートルではあるが左右の壁を上手く使いドライでつなぐ。次の雪のついた細い溝部分に移る前にプロテクションが欲しいところ。0.3くらいのクラックもどきを見つけそこにリンクカムを効かせたいところだが上手く効まらない。何度か場所を調整しながら墜落に耐えられるかどうか不安はあったが一先ずは効いた事にして先に進む。
手も足も心さえも騙しながら攀る。そして下は見ないw。
とにかく絶対に落ちられない。この緊張感が初めは怖いのだがこの辺りから心地よくも感じ始めるから不思議だ。
傾斜が少し落ち着き1ピッチ目の終了点が近づくが夏の終了点はずっと左側にあるのでもちろん使えない。
スクリューで支点をつくりたいところだが氷が悪く使い物にならない。
ちょうど2ピッチ目の少し入ったところに岩が見えるのでとりあえずそこまでロープを伸ばすことに。MAからロープの残りがあと5mとコールが。
ロープギリギリでそこまでは行けたのだがその岩から支点は取られそうにない。ハーケンも打てそうにない。草付きが凍っていることを期待してイボイノシシを使うつもりで岩の横の雪をどかしてみると下から折れた木の根の部分が出てきた。「ラッキー」だ。
それを基本にイボイノシシを使い補強して支点とした。
MAのレアなフォロー写真w
2ピッチ目の残りはMAがリード。っというか3ピッチ目とそのままつなげて登攀。
この辺りから氷は安定しだした。そして、わかってはいたがどんどんバーチカルになってくる。
そして、4ピッチ目に。
氷の状態はおおむね良好だが、それでもどこでもよい訳ではないのでラインの選択が難しい。
それに何故かMAはより難しそうな場所、よりバーチカルな場所を好んで選ぶ。
なんならそこは少しかぶってないか? こんな場所まで来ても得意のおじさんいじめかw?
そもそもアルパインとはルートの弱点を見出し登攀するものなのでは?などと思っていても所詮はフォローなので登攀ラインの最終的な選択権は私には無いのだw
曇天の中だったがこのころから時折お日様が顔をみせてくれだす。
日の光に照らされると辺りは青く美しく輝きはじめ幻想的な世界に。それと同時に背中に感じる日の光の暖かさが心を癒してくれる。だがそれもつかの間、次の瞬間にはチリ雪崩が私を現実に引き戻してくれる。
無事4ピッチ目も終わり、おそらく5・6ピッチは繋げられるので次が最終ピッチになるだろう。
いよいよ次はこのルート核心部になる5ピッチ目の氷柱群に入る。
ここまでずっとハンギングビレイだったので、一度も休憩もしていない。ここもハンギングビレイではあるが核心部に備え一度一服することにした。
白湯がうまい。
5ピッチ目はラインが狭くビレイ点が氷のフォールラインから避けられない。
MAがバイルを振るたびに氷が降ってくる。なるべく直撃しないように体を左右に振りながらビレイする。時折耳元をビュンっという音とともに氷塊がかすめていく。
薄かぶり気味の氷柱群の氷は脆く悪い。スクリューの打数が増える。当然だ。気持ちもわかる。わかるのだが、、、。これをすべて回収しながらこの氷柱群を抜けるのは私にとっては骨が折れそうだ。
MAはチリ雪崩の攻撃さえも、ものともせずに魂のこもった熱い登攀を見せてくれる。
やはり強い!漢だ!私も泣き言など言っている場合ではない。
キッチリ抜けきりコールが。私の番だ。
フォローなのだが、場所が場所だけに(終了点の様子が分からないので)基本テンションはかけたくない。堕ちたくない。
連打されたスクリューを回収しながら攀じる。腕がきつくなってくる。
それでも何とかテンションをかけずに氷柱群の抜け口が見えてきた。
最後の乗越手前部分で身体を左に振りたく、右のバイルを右斜め上にかけ少しレイバック気味に引き左のバイルを振ろうとした瞬間。氷がはじけ飛んだ。「しまった」っと思った瞬間にはすでにロープにぶら下がっていた。止まった事には「ほっ」としたが次の瞬間にはここまで「ノーテンだったのに」っと私にしては珍しく思った。
もう、どうせぶら下がっているのだからっと割り切り少しレストさせてもらう。
上を見上げると左側の少し上にでかい雪庇が見え気持ち悪い。MAも同じことを言っていた。
最後は氷柱群を抜け左側の細い溝に身体を入れ雪庇の端をかすめながら体を上げる。
後は雪壁を少し登れれば終了点だ。
抜けた。やれやれだ。MAが笑顔で迎えてくれる。
本当は山頂まで行きたかったが、雪が多くラッセルになり雪崩も怖いので今回はここで終了することにした。
トップアウト出来たことの喜びを2人でかみしめ下山の準備に入る。
少し記憶があいまいだが確か5回の懸垂(残置終了点x2+アバラコフx3)で取り付きまで戻った。 取り付きに戻ると他PTの方が偵察に来ていた。
1ピッチ目の出だしをみて「これ行ったんですか?」っと。するとMAが「僕のパートナーが行ってくれました!」っと私の肩に手を。もちろん私なんかよりはるかに強いMAだ。行けないわけがない。それでもその言葉は僕にとってはとても嬉しい一言だった。
いつまでも直下にいるのは危険なので早々に撤収。
疲労感はあったが心地よい。幕営地までは足取りも心も軽い。
幕営地まで無事帰還。
MAと握手しながら今回の成功を今思えば少しおかしなテンションで称えあったw。
直後にMAから「明日の左方カンテはやめておきましょうか?」っと
実は翌日は左方カンテなどという噂もあったが所詮は噂。
行くわけがない。行けるわけがない。私はw
MAは本当は少し行きたかったのかもしれないが左方カンテの取り付きを見る限り(一応は確認はしていた)1ルンゼのついでにやるレベルではない。っというのが私の意見だw
改めて一つの目標にし次回MAと行くことを約束し問題を先送りすることで今回は行かずに済んだwww
片付けも適当にテントに潜り込みビールを飲む。
緊張感から解放されて飲むビールは格別にうまい!
この日の晩飯はすき焼きだ!登攀の成功を祝うにはもってこいのメニューだw
MAが飲めないのは少しばかり残念だがお互いの登攀を褒め称えながら過ごした。
はたから見れば少しばかり気持ちの悪い光景だろうが今日だけは許してほしい。
終わったことの安堵感と疲労感で酔いのまわりも早く早々に眠くなる。
時間は覚えていないが明日は下山だけなので目覚ましもせずそのまま就寝した。
2/24 下山
目覚ましはしていないが6時少し前に起床。
コーヒーだけ飲んで朝食はパス。
バカ話をしながらボチボチ片付け撤収。
天気が良い。登攀の成功と青空が晴れやかな気分を誘う。
青空に浮かぶ前衛峰はとても美しいがこれが昨日だったらっと思うとぞっとする。
この日も数PTどこかを登っているようだが雪崩に巻き込まれないことをそっと祈った。
駐車場に無事戻り平湯の森で風呂に入り。MAが肉が食いたいというので焼き肉屋によって帰路についた。
今回、条件的にもパートナーにも恵まれ無事完登することが出来たことは嬉しくもあり感謝もしたい。
それでも自分自身の足らない事、弱い部分を露呈する結果になってしまったことも事実。
今回の経験を活かし鍛えなおしたいと思ったり思わなかったりw
今冬期の一つの目標は達成できたので残りの冬期はまったり過ごし、春の訪れを待とうと思う。こんな山行ばかりしていたら身も心も持たないのでwww
おしまい。
MAに甘え、呑ませてもらったビールはここ最近のなかで最高にうまかったw