2024年5月8日水曜日

残雪期 奥穂高南稜〜北穂高縦走


 期日 2024/5/3~5/5

山域 北アルプス 奥穂高岳(南稜)~北穂高岳

メンバー かず・たか・まぢこ 計3名

~PROLOGUE~

4月の中旬に肉山とまぢこの3人で西穂高西尾根に行くことに。

まぢこ、残雪期 穂高アルパインデビューだ。

西穂高西尾根はアルパインと呼ぶには少し物足りないルートだが一般道とはやはり違う。

ルーファイ含めそれなりの技術は要求される。特にこの時期は雪の残り具合で難易度がずいぶん左右される。

昨今の温暖化の影響かどうかは私にはわからないが北アルプスの雪も少なく前半は、ほぼ藪漕ぎになってしまったが森林限界を越えるころにはそれなりに雪はあった。

全装でのアルパインは私としても久しぶりで少々辛かったのだが、やはり私のアルパインの原点はこのスタイルだと改めて感じられた良い山行になった。

2024年4月 某日 ~                             

 今年も春の大型連休の時期がやってきた。いわゆるゴールデンウィークというやつだ。

今年は新会員のまぢこに残雪期穂高アルパインをさせたく行先をいろいろ考える。

順当に考えれば先ずは北穂東稜辺りが選択肢に浮かんでくる。

1日目 上高地~涸沢BC
2日目 涸沢BC~東稜から北穂。北穂~奥穂縦走~涸沢BC
3日目 涸沢BC~上高地

西穂高西尾根に行く前はこんな感じだろうか?っと思ってはいたのだが西尾根を終えたあとでは少し疑問を感じる部分があり計画を見直した。

最近の流行りのスタイルは荷重を減らしスピード重視。いわゆる「Light&Fast」だ。

ついでなのでここで「Light&Fast」について私なりの見解を述べてみることにする。

つまりは荷物を軽くしてスピードを上げ危険個所にいる時間を短くすることによりリスクを減らすという考え方だ。その反面で何かトラブルなどのイレギュラーには弱くそういう面でのリスクは高くなってしまう。

もちろん、この考え方には賛同できる。

 少し違う話かもしれないが、私の思うアルパインは全装で抜けることに意味があると思っている。

 装備の内容を精査し軽量化に努めることは当然の事だがBCありきで計画をするのは少し違う気がする。同じことのように聞こえるが、初めからBCを基準に計画するのか、計画した結果がBCなのかが私にとって重要なことなのだ。ルートによってはBCを作れないようなルートも沢山ある。それにそんなルートの方が魅力的なルートも多い。

要はBCありきのアルパインばかりやってるとルートの選択肢が減り、やれる幅が狭くなり肝心な時に登れなくなってしまうのではないだろうか。

少し前置きが長くなってしまったが、そんなわけで今回のGWの山行は全装でチャレンジする事にした。2人には少し辛い山行になるかもしれないが、きっと今後につながる良い経験になると信じてチャレンジしてほしい。

計画の概要はこうだ。

1日目 上高地〜岳沢〜南稜〜奥穂高〜穂高岳山荘CP 

2日目 穂高岳山荘CP 〜北穂高〜南岳山荘CP

3日目 南岳山荘CP〜横尾本谷〜上高地

さて、今回の山行はどうなることか?

5/2 21:30 集合・出発 

5/3 5:30 沢渡第2駐車場〜6:00 上高地出発。

沢渡からタクシーで上高地入り。上高地は予想より肌寒かった。

河童橋にてお約束の写真

 登山届けを提出し岳沢に向かって出発する。岳沢までは約2時間の距離だ。

岳沢までは特に面白いことも起こらず予定通りに着く。


岳沢小屋の前で準備をし9:00 南稜の取り付きに向かう。

私の記憶では取り付き(最初の滝)まではすぐの記憶だったが実際には1時間ほどかかった。

やはり私の記憶はあてになら無いことを再度確認できた。

取り付きへ

 取り付きまでは写真で見ても大した斜面には見え無いのだが実際に歩いてみると意外に急登だ。何度か立ち止まり息を整え先に進む。
 雪渓と岩壁の間は少し開いていて乗り移る場所を探す。左側の岩壁に乗り込んで少し上の方から回り込んでスタート地点に向かう。

10:00 南稜スタート。
 まぢこがアイゼンでの登攀にまだあまり慣れてい無いこともあるがロープの使い方や支点の作り方なども見て経験して欲しいので積極的にロープを出していくことにした。

20㌔超えの荷物での登攀はシビレルw

 始めの岩場を越え、草付きの斜面を少し登ると雪渓が出てきた。
天気がよく気温も高いので雪の状態に不安があったがこの時点ではまだマシだった。


この雪渓を登り切った場所に小滝が更に進むと5mほどの岩壁がありそれを越えた所からルートは3つに分かれる。

残雪期は右にルートを取ることが多いようだが今回右側のルートは雪渓が繋がっておらず藪漕ぎになりそうな感じだったので中央のルートを進むことにした。

雪渓は所々割れている場所もあったが正面のスラブ岩壁までそれなりには繋がっていた。

下部スラブの岩壁のトラバース

 下部スラブを大きく右にトラバースして岩場に取り付きそこから2ピッチほどの岩登りになる。初めの出だしが滝沢側に身体を出した所からの登攀になる。そのまま少し上がれば尾根の芯に乗ることができる。出だしの岩を越え少し左に戻るようなイメージで次の岩にとりつくのだがダケカンバに捕まり離陸しにくい。なんとかダケカンバをやり過ごして離陸。ホッとしたのも束の間に今度はロープが出てこない。そういえばこのピッチはまぢこがビレイしていた。

 アルパインではビレイヤーの位置からリードが見えなくなることはよくある事なのでロープが出ていく微妙な感覚を感じ取りロープを送るのだが経験が少ないまぢこにはそこまでの要求はまだしないでおこうと思いロープを出すタイミングを声に出しながらその先に進んだのだが、よく考えてみればまぢこのフォローをするためにタカをサードに置いているのに全く役に立っていない事に気づいた。
タカにロープの送りが悪いことを告げると「かずさんのまぢこちゃんへの指示が優しくて羨ましかった。もし自分なら罵倒されているとこですよ」などと言い。私の思いが全く伝わっていない事を実感した。

各ピッチともに中間支点はそれなりにあるが終了点は見当たらなかった。

2ピッチの登攀を終え少し進むと目の前にチムニーが現れる。チムニーは中に入ると階段上になっていてそのまま進むことができる。チムニーを抜けるといよいよトリコニーの基部だ。
トリコニーの1峰は出だしを滝沢側から巻いて後は岩稜通しで進めばネットなどでよく見かける映えポイントに出る。

なんかちょっとカッコよく見えるのがムカつくw

 1峰を越え2峰の基部へ向かうためにトラバースする。
この時点で雪はかなり腐っていた。それでも場所的に影にはなっているので大丈夫だろうと何の根拠もないまま1歩踏み出す。足元から丸ごと崩れる。危うく滑落するところだった。
根雪から腐っている。なので崩れると地面まで全部落ちてしまうのだ。

シャレにならないのでフィックスを張る

 雪の悪さも勿論だが全装での登攀も影響して思うように進めずトリコニーを超えた時点で17時を過ぎていた。なんとか穂高岳山荘CPまで辿り着きたいのだが時間的に厳しくなってきた。
元々、タイムリミット時はどこか適当な場所でビバークするつもりでいたので焦りは感じなかった。
 ここから先はビバーク適地を探しながら先に進んだのだがなかなか見付からず日没が迫ってきた。私の記憶ではこの辺りに適地があったはずなのだが、そこは私の記憶なので全くあてになら無いことは言うまでもないこと。多分、気づか無い間に過ぎてしまっていたのかルートがズレていたかなのだろう。

 まぢこがそろそろ精神的に限界に近い感じになってきていたのか?どう見ても適地とは言えない場所を見て「ここならビバーク出来そうじゃないですか?」と言う。
 「テントを使わずツェルトで座って一晩過ごすならここでもいいけど」と、返すとそれは嫌だと言う。横になりたいとも言う。外でご飯は寒いとも言う。
「少し掘ればなんとかなりませんか?」とも言う。

 私からすればそんなに掘ることの出来る時間と労力があるのならCPまで行ったほうが良いのでは?っと思った。そんな問答を繰り返したのち、「とりあえず、CPを目指し先に進みこの先で適地があればビバークしよう」と、まぢこを言いくるめ先に進む事にした。

 タカも口に出すと私に叱られるし、先輩としてのプライドもあるのか口には出さなかったがかなり辛そうには見えた。勿論私も。

 目の前の小ピークを越え少し先をみると適地に見える場所が。まぢこと一緒に喜びそうになるが雪面が水平なのは間違いないが問題はリッジになっていないか?、幅があるかだ。気持ちを抑えて、それでも少しの期待を胸に、まぢこの切なる思いを背中に感じながら近づいていく。
 
 神よ。どうか我々に安らぎの場所を、、、w。

この世に神はいないと先日の千丈で知ったはずなのだが、まさかこんなことが起こるとは

そこには素晴らしい安らぎの場所があった。

日没ギリギリでビバーク出来た。

慌てて整地を済ましテントを張る。中に入って少し落ち着いてから、まぢこに食事の準備をしてもらう。待っている時にこうなる事を予想していたのに岳沢小屋でビールを買ってこなかった事を死ぬほど後悔した。すでに20㌔を超えた荷物にビール1缶増えたところで大差はないのに。


まぢこの初ビビーは素晴らしい場所とロケーションだった。

ビールはないが酒は少しだけ持っていたので3人で分けて呑み、その日は疲れもあって早々に就寝した。

5/4  4:00 起床(3時に起床予定だったがなぜか目覚ましが4時にw)
 昨晩の鍋の残りにうどんを入れて朝食にした。

5:45 出発。

小ピークをいくつか越えれば奥穂の山頂が視界に入る。頭まで最後の雪原に差し掛かる。

朝一の雪はしっかり締まっていて気持ちが良い






最後の雪原

山頂目前

6:54 奥穂高岳3190m 登頂


山頂で少しの間、景色を眺め、写真を撮り、思い思いに過ごすし山頂を後にした。

山荘前の最後の下り。ガイドPTがロープ張っていて混雑していた。

8:30 穂高岳山荘到着。のんびり休憩。

 本日の予定は大キレットを越え南岳まで。しかし、すでに前日から予定に遅れが出ていることもあり、一先ず北穂まで行ってからその先の判断をすることにした。

 とはいえ、一応この時点では大キレットを越えられると思っていた。
 まさに知らぬが仏である。

 余談だが、今回の山行がタカと2人だったらこの時点でザイデンから涸沢に下山し、春の涸沢リゾート満喫プランに変更していた可能性はかなり高かったと思う。

9:30 北穂高に向け出発。
 
涸沢岳への登り返しは雪が全くないためアイゼンを外す。

穂高岳山荘常駐の警備隊の方が話しかけてきてくれたので北穂までの状況を聞いてみると雪は少ないが所々残っていて、それがなかなかに悪いという事だった。

涸沢岳に向かっているとき、この状況なら多少雪があっても3時間もあれば北穂まで抜けられるだろうと高を括っていた。

涸沢岳に向かう

 涸沢岳山頂はスルーして先に進む。

いきなり急な下降で鎖場が続くのだが雪解け直ぐなのでか浮石も多く足元も悪い。

涸沢岳直下の下り

 少し下ると雪が出てきた。アイゼンなしでも行けなくはなさそうだが昨日の事もあるので少し慎重になりアイゼンを付けた。結果は正解だった。


 涸沢岳から最低部のコルまで一気に200mほど下降する。
一部雪壁の状況が悪すぎて懸垂で下降した。
 
 何度も書いているが本当に雪が悪い。
特にトラバースには神経を使う。トラバースが多い分、昨日の南稜より神経が磨り減る。

 そんな私の思いも知らずか。タカもまぢこも2人して昨日よりは精神的に楽だという。

それは、君たちが私を生贄にして安全を確認してから雪面に乗っているからだということを忘れないでほしいw

 
最低部のコル直前

それでも天気は最高でそこから見える景色も抜群だ。

すでに日焼けが酷い。しかし下山後仕事に戻った時に「この人は全力で遊んでるんだな」と思われるためにも日焼け+サングラスの痕は必須だ。


適当に休憩をはさみアイゼンを脱いだり履いたりを繰り返しながら北穂沢のコルを目指す。

そのまましばらく進むと北穂側からのパーティーが見えた。
かなりの人数だが、複数パーティーのようだ。

タイミングの悪いことに割と大きな雪渓のトラバース部分でのすれ違いになってしまった。
相手のほうが先にロープの準備をしていたので待つことにした。
6名ほどいたのでしばらく待ちだなっと思っていた。

某大学の山岳部の子たちだった。なかなか気持ちの良い連中で好感がもてた。
女の子がリードしてロープをフィックスしていた。
偉そうにいうつもりは無いがしっかりとした技術で見ていても安心だった。

リードしてるなか後方にいた男子部員はスナック菓子をボリボリ食べていてそれを見た私が「緊張感のない奴だw」と言ったら、まぢこに「かずさんのあくびよりはましですね」っと返された。アルパイン技術の向上よりも先に、まぢこはどんどん雑な女になっていくのだ。

フィックスを張った後、我々に「このロープでよければ先に使って行ってください。」と
ありがたく使わせてもらい先に進んだ。ありがとうございました。

感謝

ついでに彼らにこの先の状況を聴き先に進んだ。2か所ほどロープを出したらしい。

上の写真の岩峰のトップに出るとその先の全景が見える。
そこから見る限り雪のルンゼは残り2か所。おそらくはそこが最後の核心部になるだろう。

予想どおり腐った雪となぜか氷化した斜面をトラバースしながら上部に向かう。

当然フィックスを張る

最後のトラバースは安定していた。

この写真の先が北穂沢のコルだ。


コルに到着したのは15:20。結局6時間もかかってしまった。

 この日は北穂高小屋のCPで幕営するつもりだったので北穂へ向かい足を踏みだす。
ん?北穂小屋?涸沢BCでダメなの?そんな疑問が私の頭に浮かぶ。
その場合北穂の山頂は踏めないが。一旦足を止め振り返り2人に確認する。

2人とも実はそう思っていたらしい。

まぢこはこの時間ならまだ涸沢で生ビール間に合います。っと。
基準はそこか?w

そうと決まれば北穂沢をダッシュで降りる。生ビールに間に合うために。

疲労感はあったが生ビールだけを心の支えに下山する

1時間ほどで涸沢に到着。人間、欲求を満たすためなら思いがけない力を発揮する。

無事涸沢に

タカと二人で幕営の準備をしておくのでまぢこには受付をお願いした。
暫くすると気の利くまぢこは水も汲んで帰ってきた。

「あれ?わたしテントの札消えました」
そこから、3人でテント札遭難救助が始まる。

探してはみたもののそう簡単に見つかるはずもなく。っというよりもビールが飲みたい気持ちが強すぎて早々に捜索活動をあきらめビールをのんだ。

テントに戻る際にまぢこが小屋に届いていないか確認しに行った。

私とタカは先にテントに戻った。しばらくするとまぢこが札を手に帰ってきた。

「見つかりました!」「七不思議です。」「また七不思議が増えました。」
まぢこはなにかしら都合の悪いことが起こると七不思議として処理しようとする癖がある。

実は、昨晩もそこまで寒くはなかったはずなのだが夜半から風が強くなりその辺りから急に寒くなり私はしばらく寒さで眠れなかった。

朝起きてその話をしているときにテントの入り口が網戸になっていることに気づく。
寒いはずだ。

最後に閉めたのはまぢこだ。その時の出来事も七不思議で済ませていた。

小屋で買ったワインを呑みながら、夕食は米を炊いて各自好きな具をかけ済ませた。まぢこが残ったご飯をおにぎりにしてくれたのでありがたく頂いたのだ。見た目も可愛くとてもおいしそうな出来だったのだが、かなりパンチの利いた塩加減だった。

疲れもあったのだろうが3人ともすぐに酔ってしまい19時過ぎには意識不明になってしまった。



5/5 5:00 起床

 本日は上高地までの下山のみ。特に早起きをするつもりもなかったのだがさすがに昨晩早く寝すぎたせいで目が覚めてしまう。


朝食をすませ。撤収準備に取り掛かる。

7:30 涸沢BC 出発

本日のミッションは
 ①徳澤でコーラソフトを食べる。
 ②明神でイワナの塩焼きを食べる。

少々渋滞気味の登山道を本谷に向け歩く。

Sガレを過ぎ本谷のつり橋の少し手前で人だかりが。何かあったようだ。
崖下10mほどのところに2名の方がいた。

1名が滑落して、もう一人が救助に行ったようだ。

詳細は控えるが少しだけお手伝いをしてから先に進んだ。

本谷のつり橋でアイゼンを外し横尾に向かう。

徳澤でミッション①をクリアして明神に向かう。


明神でミッション②をクリアして上高地に向かう。


もうこうなると観光客と変わらない。

この先上高地まで最後のピッチを惰性で歩き上高地到着。

タクシーにて沢渡まで移動。風呂に入って、高山の王将で飯を食って帰宅した。

総評
予想通り雪は少なく、予想以上に各ルート上の雪が悪かった。
全装でのアルパインは厳しくもあるが、それだけでも充実感は大きかった。
結果的に計画通りの遂行はできなかったが各自それなりに得るものはあったと思う。

タカは今年度の目標の1つ。南稜がやれてよかったと思う。
次回は自分で行ってくれ。

まぢこは西尾根に続き穂高でのアルパイン。
西尾根に比べると岩場も危険個所も多い。西尾根ではロープは使わなかったが今回は積極的にロープを使ったことで勉強になることも多かったと思う。この経験をしっかり自分の技術に加えてもらえると嬉しく思う。

ともあれ、各日とも長い行程を事故無く無事に帰ってこれたことは何よりだ。

これで今年の私の雪山は終了だ。そろそろ体重を絞ってクライミングがんばるかなw



















 



























残雪期 奥穂高南稜〜北穂高縦走

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